木曜劇場『ルパンの娘』は振り切ったコメディ(番組公式HPより)
『絶対零度』『SUITS/スーツ』『トレース』『ラジエーションハウス』が、「1年間2桁視聴率を記録」という一定の成果をあげたことで、「次は手堅いジャンルを扱うだけでなく、その中で攻めていこう」というフェーズに入っているのではないでしょうか。
一方、木曜劇場は2010年代後半、何をやってもうまくいかず、視聴率はプライムタイムで放送される連ドラの最下位になることもありました。その中で唯一成功した『グッド・ドクター』は、現在月9が取り組んでいるジャンルであり、「フジテレビ制作の2枠に似た作品が並ぶ」のは得策と言えません。
そこで浮上したのは、フジテレビが製作委員会に名を連ねて成功した『翔んで埼玉』のような振り切ったコメディ路線。『ルパンの娘』と『翔んで埼玉』の演出・脚本は同じスタッフであること、さらにコメディ映画『テルマエ・ロマエ』とプロデュース・演出が同じスタッフであることからも、その様子がうかがえます。
スタートからここまで、『監察医 朝顔』は高視聴率を記録し、『ルパンの娘』は前述したツイッターのほか見逃し配信視聴数でも歴代最高レベルを記録。「月9は広告指標である視聴率を担い、木曜劇場は話題性やネットの反響を担う」という図式が浮かび上がってきます。
たとえるなら、前者がコツコツとヒットを狙うアベレージヒッターで、後者はフルスイングでホームランを狙うホームランバッター。2010年代の低迷をきっかけに、長年の伝統にしばられることなく、新たな方針を打ち出しているのではないでしょうか。
◆なぜ「リニューアルします!」とPRしないのか?
ただ、大きく変化させているにも関わらず、フジテレビは「ドラマ枠の方針を変えます」「月9はリニューアルしました」とPRしていません。
「なぜPRしないの?」と思うかもしれませんが、もともと民放各局は、ドラマ枠そのもののPRをすることはほとんどないのです。たとえば、TBSの『日曜劇場』は熱い男たちが戦う職業ドラマ、『火曜ドラマ』は漫画を原作にした女性の共感を狙うドラマ。日本テレビの『水曜ドラマ』は女性主人公の仕事と恋を描いたドラマ。テレビ朝日の水曜9時と『木曜ミステリー』は刑事ドラマというように、それぞれハッキリとしたカラーがあるにも関わらず、各局が自らそれを打ち出すことはありません。
その理由は、ターゲット層以外の視聴者層をシャットアウトしないため。どのドラマ枠にも、いわゆる“お得意様”のターゲット層がいますが、それ以外の層に「自分には関係のないドラマ枠」と思われないために、「ウチはこういう枠です!」とPRをしないのです。また、ターゲット層の人々も、時代や流行に合わせて嗜好が変わるため、「同じテイストのドラマを放送し続けていればいい」というわけではないのでしょう。
特にフジテレビが近年そうだったように、視聴率の低迷が長引いたときはリニューアルの必要性に迫られますし、変えたものがまた不振に陥れば再リニューアルを求められるなど、あくまで暫定的な変更に過ぎないため、わざわざ「リニューアルします!」とPRしないようです。