宇田川氏が大切にしたのは「熊谷らしさをどう表現するか」ということ。熊谷には「日本さくらの名所100選」に選ばれた長さ2kmにわたる桜堤がある。それをかき氷で表現できないかと試作をはじめる。
「頭に浮かんだのは、氷の中に透けるような桜の花びらが、ふんわりと舞っている絵でした。実際に咲く桜は薄いピンク色で透明感があって、そして凛としているもの」
そのとき作ったさくらなどのかき氷が評判をよび、すぐに行列ができるようになった。翌年からは一年中、冬もかき氷を提供。2011年にかき氷専業店になった。驚くべきことに、宇田川氏は特にかき氷好きだったわけではない。それどころか甘い物は苦手でほとんど食べないのだという。
◆メニューを見ただけでは味の想像ができない
整理券の時間に店に入ると、左側に大きなボードがあり、たくさんのメニューが貼ってある。この店では、着席前に注文するかき氷を決め、精算を済ませる。慈げんのかき氷は、「毎日15種類40通り以上」を用意している。
「『どうしてそんなに?』と思うかもしれませんが、お客さんにわくわくしながら、好みの一品を見つけて欲しい。好みはひとりひとり違うから、本当はひとりひとりの味覚に合わせることが理想。それはできないので、甘いのからすっぱいの・苦味のあるもの、さっぱりしたものからこってり系まで、幅を広げてメニューを用意しておくのです」
通常、かき氷のメニューは「かき氷を食べたい人が食べる」という前提で作られている。しかし、宇田川氏は自身が甘い物が苦手なこともあり、どんな人でも満足できるかき氷を提供したいと考えている。