呉智英氏が法と精神について語る

 それなら、心神喪失者は海や岩と同じ「物」だとしていいのだろうか。当然、違うという意見が出るだろう。なぜならば、心神喪失者は人であって物ではないからだ、と。心神喪失者は人間としての遺伝子を持ち、年齢や体質などの条件がよければ子供を作ることができる。つまり、人間の同胞なのだ。

 では、同胞ではない人間がどこかにいた場合は、どうか。原人・猿人の生き残りが、ジャングルかヒマラヤ山地に住んでいる可能性は否定できない。ネアンデルタール人は何万年も前に現生人類と交雑し、我々の遺伝子にネアンデルタール人の遺伝子が混じっている、という研究も最近出てきた。そうであれば、ネアンデルタール人は我々の同胞である。

 だが、五十万年前に生きていた北京原人や百七十万年前に生きていたジャワ原人は、現生人類との交雑は確認されていない。この人たちの生き残りが発見された場合、人間の同胞としていいのだろうか。この人たちが石斧で人間を殴り殺した時、「人」だから有罪にするのか「物」だから罪を問わないのか。

 我々と同等か、あるいはもっと高度の知能や判断力を持つ宇宙人が地球に来た場合は、どうか。彼らが光線銃で人を殺した場合、宇宙「人」だから裁判に掛け、刑務所に入れることができるのか、あくまでも宇宙人という生「物」なのだから責任はないとするのか。

 私は冗談を言っているのではない。法の根本にある「人間観」に矛盾や限界や亀裂はないか、と問うているのだ。

●くれ・ともふさ/1946年生まれ。日本マンガ学会前会長。近著に本連載をまとめた『日本衆愚社会』(小学館新書)。

※週刊ポスト2019年8月16・23日号

関連記事

トピックス

岸信夫元防衛相の長男・信千世氏(写真/共同通信社)
《世襲候補の“裏金相続”問題》岸信夫元防衛相の長男・信千世氏、二階俊博元幹事長の後継者 次期総選挙にも大きな影響
週刊ポスト
海外向けビジネスでは契約書とにらめっこの日々だという
フジ元アナ・秋元優里氏、竹林騒動から6年を経て再婚 現在はビジネス推進局で海外担当、お相手は総合商社の幹部クラス
女性セブン
二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ
《独立後相次ぐオファー》二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ 「終盤に出てくる重要な役」か
女性セブン
女優業のほか、YouTuberとしての活動にも精を出す川口春奈
女優業快調の川口春奈はYouTubeも大人気 「一人ラーメン」に続いて「サウナ動画」もヒット
週刊ポスト
真剣交際していることがわかった斉藤ちはると姫野和樹(各写真は本人のインスタグラムより)
《匂わせインスタ連続投稿》テレ朝・斎藤ちはるアナ、“姫野和樹となら世間に知られてもいい”の真剣愛「彼のレクサス運転」「お揃いヴィトンのブレスレット」
NEWSポストセブン
デビュー50年の太田裕美、乳がん治療終了から5年目の試練 呂律が回らず歌うことが困難に、コンサート出演は見合わせて休養に専念
デビュー50年の太田裕美、乳がん治療終了から5年目の試練 呂律が回らず歌うことが困難に、コンサート出演は見合わせて休養に専念
女性セブン
今回のドラマは篠原涼子にとっても正念場だという(時事通信フォト)
【代表作が10年近く出ていない】篠原涼子、新ドラマ『イップス』の現場は和気藹々でも心中は…評価次第では今後のオファーに影響も
週刊ポスト
交際中のテレ朝斎藤アナとラグビー日本代表姫野選手
《名古屋お泊りデート写真》テレ朝・斎藤ちはるアナが乗り込んだラグビー姫野和樹の愛車助手席「無防備なジャージ姿のお忍び愛」
NEWSポストセブン
破局した大倉忠義と広瀬アリス
《スクープ》広瀬アリスと大倉忠義が破局!2年交際も「仕事が順調すぎて」すれ違い、アリスはすでに引っ越し
女性セブン
大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
韓国2泊3日プチ整形&エステ旅をレポート
【韓国2泊3日プチ整形&エステ旅】54才主婦が体験「たるみ、しわ、ほうれい線」肌トラブルは解消されたのか
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン