こうした領収書の不正は、「ある程度、経験のある経理部員ならわかる」と前出の前田氏はいう。
「出版社の校正担当者は『誤字脱字が目に飛び込んでくる』らしいですが、経理部員も10年やればパラパラとめくるだけでも手が止まる領収書があるのです。
不正の領収書は、数百円から数万円のものがほとんどですが、例えば飲食接待のものに関しては、社員のスケジュールを見れば、信ぴょう性があるかどうかはだいたいわかります。少額のものは、それ自体の不正を質して追及することはあまりないのですが、マークしておくべき人として記憶にとどめます。領収書の出し方も、束の真ん中に紛れ込ませる人もいれば、一番上に堂々と不正な領収書を張り付けてくる人もいる。人間性が出るんです。
悪質なのは【3】のケース。懇意にしている飲食店のママから白紙の領収書をもらったり、先方と自分の2人で3万円の領収書なのに、支払いを折半してそれぞれ3万円ずつの領収書をもらったりする人もいます。そういう不正が予想できるときは、雑談がてら『どんなお店なの?』と聞くんです。『今度、一緒に行きましょうよ』という場合はシロですが、濁したら『知られたくないんだな』と思ってしまいます」(前田氏)
どうやらベテラン経理部員はすべてお見通しのようだ。会社のお金を私的に使ったり、着服したりすることは、刑法253条に規定されている業務上横領という犯罪に該当する。経費によって会社の利益が変わり、森若が第1話で言うように「会社が税務署に納める税金が変わって」くるから、“チョロまかし”では済まないのだ。
『これは経費で落ちません!』は、新しく会社に勤め始めた人、経費や会社のお金についてあまり考えてこなかった人には、目からウロコのドラマかもしれない。
●取材・文/岸川貴文(フリーライター)