海賊版サイトの問題、とくに漫画をめぐる問題は、作品を勝手に掲載されている漫画家が、声をあげづらい雰囲気があると言われる。被害者なのは間違いないのに、なぜ、萎縮して過ごさねばならないのか。ライターの森鷹久氏が、身動きが取りづらいと嘆く漫画家が置かれている状況などについてレポートする。
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「ハッとしました。私の漫画のファンではなかったのか、私の作品を愛してくれていたのではないのか。体中の力が抜け、涙が溢れた。私のやっていることは何なのだろうと」
絶対匿名を条件に筆者の取材に応えてくれたのは、漫画家の田宮サトシさん(仮名)。漫画誌の連載経験もあり、単行本も発売されている。十代から十数年、漫画家のアシスタントなどを務め、やっと掴んだ「漫画家」の夢。そんな彼の思いを打ち砕いたのは、とあるネット上の書き込みだった。
「私の作品の登場人物をSNSのアイコンにしているユーザーが“漫画村復活を望む”と書き込んでいたのです。たったそれだけ、そう思われるかもしれません。でも、作品もキャラクターも、私にとっては子供みたいなもの。その子供を愛してくれているはずの人が、そうした考えだったのかと」(田宮さん)
日本中の漫画作品を、著作権者に無断でネット上にアップロードしていたとして「漫画村」の実質的管理人と見られる男がフィリピン当局に拘束された。被害額は3000億円規模とも言われているが、漫画村の閉鎖に関して、ネット上ではにわかに信じがたいような書き込みが散見されたのを、筆者も確認している。
「漫画なんかタダで読ませろ、出版社からギャラが出ているだろう、そうした書き込みが少なくない数ありました。漫画村の復活を望む人たちの声です。彼らは、法律を知らない小中学生かもしれない。著作権云々を彼らに説いても無駄かもしれない。でもそれは、作品だけでなく、クリエイターそのものを殺す行為なのだと、何とか理解して欲しかったのです」
何度も繰り返されている説明だが、漫画家は、皆が思っているほど高給取りではない。雑誌連載の原稿料に、単行本を出版してその売上げを得て、ようやく仕事だと胸が張れる。デジタル化がすすんでいるとはいえ、漫画を描くのは時間も技術も必要な作業だ。その結果、生まれた漫画が一人でも多くの人に親しまれるようにと、最近は漫画家みずからがネットで自著の宣伝をすることも珍しくない。
「多くの人に読まれたい」というのは、漫画家や作家が抱く当たり前の感覚だろう。時には「タダでもいいから読んでほしい」と思うことだってあるかもしれない。筆者の原稿ですらそうだ。しかし、筆者の取材などとは比べ物にならないほどの労力をかけて生み出された作品について「タダで読ませろ」と言われてしまったら、心が折れてしまうのも痛いほどわかるつもりだ。しかし、こうした声、当たり前の権利を主張する声は、特に漫画村をめぐる騒動においては、なぜかネット全体に広がっているとは言いづらい状況にある。