「あまり知られていませんが、原爆を題材にした映画や、女優さんの戦争朗読劇などには出てくる話です。孤児たちの組織はぼくのフィクションですが、詳しく調べていくと、少年たちが髑髏を売っていたという複数の証言がありました」
息子が犯罪に手を染め警察を去った蓼丸は、警備会社OBとして元国会議員の久都内の警備につくことになり、息子を犯罪に引き入れた土井が久都内の秘書になっていると知る。
〈土井とは何者か〉、改めて調査を始めた蓼丸は、久都内の金庫番だった柚木美代子と偶然、知り合う。
九十歳を超えた柚木は蓼丸を誰かと間違え、〈晴彦さん?〉と呼ぶ。被爆二世で早くに両親を亡くした蓼丸も、〈どうして柚木に、これほど心を開けるのかわからない〉と感じながら、会ってお茶を飲む間柄になる。
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殺人事件に、広島の戦後史をからめたミステリーは、戦争とは、悪とは何かを問う小説でもある。
久都内は原爆を〈絶対悪〉と呼び、〈あの悪の前では、すべての悪が矮小です。すべての悪が許される〉と聴衆の前で講演する。この命題は、小説の中でくり返される。〈日本も核武装を!!〉と叫ぶ右翼団体があり、刑事の間で、〈罪の重さとしては、戦争より殺人のほうが重い〉かどうかで意見が戦わされたりもする。