また、春之介の着物もなかなかだ。職場である城では、みんなと同様、裃(かみしも)姿なのだが、これもちょっと違和感が。両肩が三角に張り出して見える「肩衣(かたぎぬ)」は、微妙に小さめでよれよれしている。袴もつんつるてんで、なんだか半ズボンぽく見えてくるのである。
時代劇で「できる武士」といえば、りっぱな裃姿が思い浮かぶ。肩衣はでかくて尖りまくり、袴もすらりとして、堂々とした印象だ。実際、この映画でも、江戸幕府の出世頭・柳沢吉保(向井理)の肩衣は、ピシーッとしてでかい。映画スタッフは、春之介のキャラクターを伝えるために、細かなアイデアをいろいろ盛り込んでいるのである。
しかも、このキャラクター表現で驚くのは、「春之介はリアル武士としてはかなり違和感があるが、星野源にはとっても似合っていて違和感がない」ということだ。私もこんなにハムスターしっぽちょんまげが似合う俳優を他に知らない。まげが小さめの殿様、若旦那は過去にも大勢出てきたが、それとは似て非なるものなのである。
なお、星野源が人づきあいが苦手な人物を演じると聞いて、ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』を思い出す人も多いはず。春之介も目を泳がせ、ぽかんと口を開け、急に慌てるなど、絶妙な動きを見せる。こういう動きを期待される俳優は、日本にはめったにいないが、星野源は期待を裏切らないのである。「恋ダンス」も懐かしい。この映画には野村萬斎振付・監修による独特の振りがついた「引っ越し唄」がある。「恋ダンス」の振付がマスターできなかった人でも、盆踊りくらいの速さで踊る「引っ越し唄」ならなんとかできるかも。人のまげをハムスターのしっぽとか言ってるわりにダンスがまったくできない私も妙に安心しました。