七八年にスタートした『暴れん坊将軍』(テレビ朝日)では、将軍吉宗(松平健)を助ける南町奉行・大岡忠相を演じた。
「『黄門』で僕のイメージが固まってしまうことは避けたいと六年目に降板を申し入れたのですが、『ご奉公』としてあと二年出演してやめることになりました。
『黄門』をやめた直後に『暴れん坊』のオファーがあったんです。『松平健という新人の俳優が主演をやるので、それを助けてくれ』という形でオファーを受けたんですよね。役としても、大岡越前は吉宗の懐刀ですから。そういう位置付けは面白いと思ったのでやろうと。
まさか十九年も出演するとは思いませんでしたがね。ただ、そういう長いシリーズに出るというのは功罪相半ばすることもあって。自分の生活を支えるために引くに引けないところもありましたが、安定と引き換えに失うものも大きかった。
長期のレギュラーをやることで他局の制作も先入観をもつし、僕自身もそこから抜け出せなくなる。もしやっていなかったら、もっといろんなものに挑戦できたかもしれない。でも受けなかったら、家族を養えなかったかもしれない。色々若いころは試行錯誤するものです。ただ、芝居に生きたいことには変わりがないのにね」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。
■撮影/黒石あみ
※週刊ポスト2019年9月6日号