国内

京アニの功績を振り返る、働き方改革と細部へのこだわり

アニメ制作会社「京都アニメーション」近くに新たに設置された献花台で手を合わせる人々(時事通信フォト)

 平成以降最悪の35人が死亡した放火事件から約1か月。この夏が終わる前にもう一度見つめたい──。

 7月18日、京都市伏見区にあるアニメ制作会社「京都アニメーション(以下、京アニ)」第1スタジオが放火され、男女35人が死亡、34人が重軽傷を負った。黒く煤けた外壁と焦げ臭さがいまだに残る現場近くには8月末まで献花台が設置され、多くの人が訪れている。

 京アニの創業は1981年。創業者は八田英明社長と妻・陽子さんだった。陽子さんは東京のアニメ会社で働いた経験があり、最初は下請けでセルに色を塗る「仕上げ」専門の会社として、夫婦二人三脚で京アニを立ち上げた。

 その後、作画や演出、美術や撮影などを少しずつ自前で行うようになり、やがて1つの作品を丸々自社で制作できるようになった。

 黎明期の京アニを支えたのは、今回の事件で犠牲になった木上益治さん(61才)だ。 京アニをよく知る京都文化博物館の主任学芸員・森脇清隆さんが語る。

「コストや手間がいくらかかっても絶対に手を抜かず、常に全力を出し切る。セリフや音楽に頼らなくても、絵の動きと演出ですべてを表現するという、京アニの作風を確立したのが木上さんでした」

 映画『ドラえもん』シリーズや『火垂るの墓』『AKIRA』といった名だたる作品に参加しつつ、積極的に若手を育成した木上さんの尽力によって、京アニは2000年代半ばから『涼宮ハルヒの憂鬱』『けいおん!』などのヒット作を連発して、日本のアニメ界に不動の地位を築いた。

 京アニの成功の理由の1つは、昨今唱えられる「働き方改革」を先取りしたことだと森脇さんが指摘する。

「とりわけ素晴らしいのは創業者である八田陽子さんのマネジメントです。彼女は『まず生活を安定させなかったらええものはできない』『ものづくりは人づくり』との信念を持っていた。京都に根を据え、スタッフを正社員にして生活を安定させ、残業や休日出勤もできるだけさせずに、アニメーターを育成しました。そうした環境で人材が育ち、優秀な人がどんどん出てきたんです」

 なかでも際立つのは、女性スタッフの活躍だ。ほかのアニメ会社に比べても、女性の割合は格段に高いという。

「京アニでは、作画監督やキャラクターデザインという重要なポジションを女性が担うことが多い。もともとサブカルチャー的なアニメはロリコンや暴力のように男性の欲望を刺激するイメージを持たれるかたが多いですが、八田さんご夫妻は女性が見て不快になるような演出はしなかった。女性スタッフがメインの役割を担って男性目線の描き方を避けたことで、普通の女子中高生でもごく自然にアニメを楽しめるようになった。これも、京アニが世の中に受け入れられた理由の1つです」(森脇さん)

関連記事

トピックス

クマによる被害が相次いでいる(左・イメージマート)
《男女4人死傷の“秋田殺人グマ”》被害者には「顔に大きく爪で抉られた痕跡」、「クラクションを鳴らしたら軽トラに突進」目撃者男性を襲った恐怖の一幕
NEWSポストセブン
本拠地で大活躍を見せた大谷翔平と、妻の真美子さん
《スイートルームを指差して…》大谷翔平がホームラン後に見せた“真美子さんポーズ”「妻が見に来てるんだ」周囲に明かす“等身大でいられる関係”
NEWSポストセブン
“飛ばし屋あいちゃん”の異名も
《女子ゴルフ後藤あい》16歳ドラコン女王“驚異のぶっ飛び”の秘密は「軟らかいシャフトで飛ばす」 アマチュアゴルファーでも実践できるのか? 専門家が解説
週刊ポスト
部下と“ラブホ密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(左・時事通信フォト)
《「策士」との評価も》“ラブホ通いすぎ”小川晶・前橋市長がXのコメント欄を開放 続投するプラス材料に?本当の狙いとは
NEWSポストセブン
女性初の首相として新任会見に臨んだ高市氏(2025年10月写真撮影:小川裕夫)
《維新の消滅確率は90%?》高市早苗内閣発足、保守の受け皿として支持集めた政党は生き残れるのか? 存在意義が問われる維新の会や参政党
NEWSポストセブン
滋賀県を訪問された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年10月25日、撮影/JMPA)
《すぐに売り切れ》佳子さま、6万9300円のミントグリーンのワンピースに信楽焼イヤリングを合わせてさわやかなコーデ スカーフを背中で結ばれ、ガーリーに
NEWSポストセブン
注目される次のキャリア(写真/共同通信社)
田久保真紀・伊東市長、次なるキャリアはまさかの「国政進出」か…メガソーラー反対の“広告塔”になる可能性
週刊ポスト
送検のため奈良西署を出る山上徹也容疑者(写真/時事通信フォト)
《安倍晋三元首相銃撃事件・初公判》「犯人の知的レベルの高さ」を鈴木エイト氏が証言、ポイントは「親族への尋問」…山上徹也被告の弁護側は「統一教会のせいで一家崩壊」主張の見通し
NEWSポストセブン
新恋人のA氏と腕を組み歩く姿
《そういう男性が集まりやすいのか…》安達祐実と新恋人・NHK敏腕Pの手つなぎアツアツデートに見えた「Tシャツがつなぐ元夫との奇妙な縁」
週刊ポスト
女優・八千草薫さんの自宅が取り壊されていることがわかった
《女優・八千草薫の取り壊された3億円豪邸の今》「亡き夫との庭を遺してほしい」医者から余命宣告に死の直前まで奔走した土地の現状
NEWSポストセブン
左から六代目山口組・司忍組長、六代目山口組・高山清司相談役/時事通信フォト、共同通信社)
「六代目山口組で敵う人はいない」司忍組長以上とも言われる高山清司相談役の“権力” 私生活は「100坪豪邸で動画配信サービス視聴」も
NEWSポストセブン
35万人以上のフォロワーを誇る人気インフルエンサーだった(本人インスタグラムより)
《クリスマスにマリファナキットを配布》フォロワー35万ビキニ美女インフルエンサー(23)は麻薬密売の「首謀者」だった、逃亡の末に友人宅で逮捕
NEWSポストセブン