環境中のラドンは自然被ばくの要因のひとつである。放射性セシウムから出るβ線に比べてラドンから出るα線はエネルギーが大きいので注意が必要で、ラドンによる健康被害は炭鉱や鉱山で働いている作業者などの間で実際に出ている。前述した朝鮮日報の記事も〈WHOは「肺がん患者の3~14%はラドンのせいで発病していると推定される」として「基準値以上のラドンを吸入したらがんにかかる危険性がある」と発表している〉と警鐘を鳴らす。
なぜソウルでは空間線量や屋内ラドンの濃度が高いのか。首都大学東京健康福祉学部放射線学科の福士政広教授はこう説明する。
「韓国では基盤岩(地面の下の地殻を構成する岩石)にラジウムを含む花崗岩が広く分布しているからと考えられます。ラジウムがα崩壊すると気体のラドンになり、空気中に出てきます。ですから、地面からラドンが出てきますし、コンクリートの骨材に花崗岩が使われていると、室内にラドンが出てきて、密閉性の高い建物だと溜まりやすくなります。屋内ラドンの濃度については、アメリカの環境基準で1立方メートル当たり150ベクレル、ラドン濃度の高い欧州で同200ベクレルですので、記事に出てくる同345ベクレルは少々高いと言えるでしょう」
一方、日本の屋内ラドンの濃度は、国連科学委員会(UNSCEAR)の2006年報告書によると、平均で1立方メートル当たり16ベクレルで、世界平均の同39ベクレル、韓国の同53.4ベクレルと比べるとかなり低い。世界を見渡せば韓国より空間線量や屋内ラドン濃度が高い地域は多々あり、日本の数値が低いために「ソウルの空間線量は東京の3.3倍」という大きな差にもつながっているだけで、この数値をもって「ソウルは危ない」などと論じるべきではない。
●取材・文/清水典之(フリーライター)