「翌年の春、またやるっていうんですよ。しかもプライムタイムの全国放送だという。話が違うじゃないか!と思いつつも、一度かかわった作品には愛が芽生えますからね」
そう、佐藤にとっては、映画も舞台もドラマも、そしてクイズ番組も等しく作品なのである。その後8月には2時間の特番が放送され、2018年10月からレギュラー放送決定。
「話が違うにもほどがある! と、2人の女性に相談しました。ひとりは妻で『こう言っちゃなんだけど、長く続く番組じゃないと思うから、与えられた期間一生懸命やれば?』と(笑い)」
もうひとりは、かつて劇団「自転車キンクリート」で共に汗を流した友人で演出家の鈴木裕美氏。
「彼女からは、『自分が本当にやりたいこととはちょっとズレてても、やりたいことにリンクしている部分があって、なおかつそれをやることで本当にやりたいことに支障がないのなら、あなたの才能を欲する人に提供するのは、すごくご機嫌な人生だと思うよ』って言われて、なるほどなと」
◆ぼくはもう進化しません
佐藤二朗の、才能。一度見たら忘れられない風貌と、どこまでが台本どおりでどこからがアドリブなのかわからない台詞まわし。そして、瞬発力抜群の演技力。
佐藤はそのすべてを、バラエティーの場でも惜しみなく提供し、“壁”の真ん中に据えられたセンターステージを縦横無尽に駆けまわる。360度から注がれる参加者の視線をガッツリ受けとめ、予測不能の弾を放つ。台本なんてないのに必ずドラマが生まれる。
「よくスタッフとも話すんですよ、何のドラマも起きない回があってもいいよね、と。でも、何かしら起きる。なぜなら、参加者も、問題を作ってる作問チームもガチだから。そこから発生する熱量が、ドラマを生むんだと思いますね」
100人の参加者のうち、誰がセンターステージに立つのかは、その時になってみないとわからない。使われないかもしれない問題を、作問チームは夜を徹して作り、参加者は自分が選んだジャンルのために必死になる。
「センターに立った人は3問目くらいから『もう100万円とかどうでもいい! このジャンルの次の問題が知りたい! このジャンルでもっとみんなと競いたい!』という気持ちになってくるんです」
──それほど愛せるものがあるのは、とても幸せなこと。
そう、佐藤は言う。