しかし、洗脳教育によって真実を知らされていない韓国民は、マスコミの尻馬に乗って李教授を売国奴呼ばわりした。普通の人間ならここで絶望し、あきらめるところだろう。だが、李教授はあらゆる妨害や弾圧にも屈せず、その後も学者としての良心に基づき自己の学説を発表し続けた。深く敬意を表したい。
もちろん、いまでも韓国の歴史学界の大多数は教授に批判的である。北朝鮮を理想の国家と考え日本を絶対悪とすることを学問の目的と勘違いしている歴史学者と、うっかり教授を弁護して親日派のレッテルを貼られるのが怖い歴史学者が混在しているのだろう。だが、なかには勇気があり、このままではいけないという真の愛国心を持った歴史学者もいる。そういう人たちがこの『反日種族主義』の出版に踏み切った。
これまでの韓国なら直ちに「売国奴」の罵声とともにマスコミの袋叩きにあい、国民の支持を失って闇に葬られただろう。これは誇張では無い。かつて同じように韓国の捏造歴史教育を告発した歴史家金完燮の著作『親日派のための弁明』(韓国人が自分の著書に親日派という言葉を使う勇気に気がついていただきたい)は、韓国内では逆に「歴史を捏造している」と批判され「青少年有害図書」に指定されてしまったのである。二〇〇二年のことだ。
こういうことを知れば、同じく韓国の歴史捏造教育を告発した内容の『反日種族主義』が曲がりなりにもベストセラーになったということが、韓国の歴史にとっていかに画期的なことかわかるだろう。もっとも本に対する評価は真っ二つに分かれており、とくにこれを批判する人々はこの本のことを「ゴミ」と呼んでいるという。まだまだ韓国人が真の歴史を認識するには時間がかかるということだ。逆に言えば、洗脳教育はそれだけ恐ろしいということでもある。
私が今年の八月に韓国に取材に行ってもっとも驚いたのは、若い人たちが朝鮮戦争における卑怯な不意打ちで数十万人の韓国人を殺した北朝鮮よりも、少なくとも戦後はそうした形では一人の韓国人も殺していない日本を「悪」だと言い切っていたことだ。まさに洗脳教育の大勝利である。