「ほぼ全部のタネを手造りするのは1990年の創業時からのこだわりです。そのためにおでん屋をやろうと決心しました。トレードマークの瓢箪の由来は豊臣秀吉の馬印『千成瓢箪』。おでんで天下を取るという願いを込めて。でも、開店当初は1人もお客様が来ず、出汁を全部捨ててしまう日もありました」
「おやっさん」と慕う職人たちも出勤し、午前中からタネの仕込みにフル稼働。調理場は終日活気に溢れ、「いわしつみれ」だけで1日300個以上を仕込むことも。一人娘で代表取締役の須田江利香さんは「父が考案したタネや一品料理は、目、耳、舌など五感で楽しんでいただけるようアイデアと工夫とおいしさが満載です」と語る。
51歳で店を始め、今年で80歳を迎えたが、「まだまだ、これからですよ。今もチャレンジャーです」とにこやかに話す中田さん。午後10時半すぎ。のれんが下ろされた店内では毎晩、最後に瓢箪鍋を丁寧に磨き上げて1日が終わる。次の日の出番に備え、新品のようにピカピカに輝きを増した鍋も眠りにつく。
●撮影/岩本 朗 取材・文/上田千春
※週刊ポスト2019年11月22日号