実父、実母、兄弟、姉妹のうち、少なくとも1人ががんになったことの「ある」グループと「ない」グループに対象者を分類。がん家族歴の「ある」グループは「ない」グループと比べて、がんに罹患するリスクがどれだけ上昇するかを解析した。さらに「年齢」「性別」「地域」「BMI(体格指数)」「喫煙」「飲酒」「身体活動」「糖尿病歴」「健康受診歴」「月経状況(乳がん、子宮がん)」「ホルモン剤の使用(乳がん、子宮がん)」という、属性や生活習慣などにかかわる10項目について対象者に尋ねている。
「我々は『家族ががんに罹患していても、本人が肥満や飲酒などの要因を持っていなければ、本人のがん罹患リスクにはならないと期待していました」(同前)
導き出された研究結果は、澤田氏の想定と反するものだった。
「環境的要因にかかわらず、がんの家族歴がある人はがんに罹患しやすい、という結果が出ました。つまり、本人の生活習慣よりも、遺伝的要因、もしくは家族が共有してきた環境のほうが罹患に影響している可能性が浮かび上がったのです」(同前)
◆7種のがんで「家族歴」リスク
掲載した図は、今回の研究結果をまとめたものだ。この数値は「がん家族歴のある人は、ない人に比べて罹患リスクが〇倍上昇する」ということを意味している。「がん家族歴があると罹患リスクが有意に増す」という結果が出たがんは、「肺がん」「食道がん」「胃がん」「肝臓がん」「膵臓がん」「子宮がん」「膀胱がん」の7種類だった。
注目すべきは、これらが環境的要因による発症リスクが大きいと考えられてきたがんであることだ。代表的なのが、日本人男性の罹患数トップである「胃がん」だろう。胃がんは、環境的要因であるピロリ菌感染の影響が大きいとされている。しかし今回の研究結果では、がん家族歴があると胃がんの罹患リスクが1.36倍上昇した。男性の死亡者数が最も多い「肺がん」についても喫煙をはじめとする生活習慣による影響が大きいとされてきたが、家族歴があると罹患リスクが1.51倍上昇することが示された。
アルコールやウイルス感染の影響が大きいとされる「肝臓がん」も罹患リスクが1.69倍上昇した。肝臓がんと同様にアルコールの影響が大きいとされる「食道がん」でも、がん家族歴があると罹患リスクが2.11倍上昇した。その他の膵臓がん(2.63倍上昇)、子宮がん(1.93倍上昇)、膀胱がん(6.06倍上昇)も、食生活などとの関連が指摘されてきたがんである。