ライフ

【著者に訊け】米国高校生の討論を通して描く「戦争と原爆」

来年2月には、一人の女性の生き方を見つめて描いた母と娘の物語『窓』が発売予定絵の小手鞠るいさん(撮影/小倉雄一郎)

【著者に訊け】小手鞠るいさん/『ある晴れた夏の朝』/偕成社/1400円

【本の内容】
 アメリカの8人の高校生が、広島・長崎に落とされた原子爆弾の是非について、肯定派と否定派に分かれて公開討論する。メンバーは、主人公の日系アメリカ人メイをはじめ、アイルランド系、中国系、ユダヤ系、アフリカ系と、そのルーツは様々。それぞれの置かれた立場から、真珠湾攻撃、日中戦争、ナチズム、アメリカマイノリティなどにも話がおよんでいく。息詰まる討論の行方と、その結末は──。アメリカ在住の著者が「戦争と原爆」の歴史と記憶、未来について問いかける渾身作。

 昨年夏に出版された『ある晴れた夏の朝』は、広島・長崎への原爆投下がアメリカではどうとらえられているかを、肯定と否定の二手に分かれた高校生の討論会を通して描く。青少年読書感想文コンクールの課題図書にも選ばれ、このほど小学館児童出版文化賞を受賞した。今後も長く読み継がれていくだろう作品である。

「日本の読者にはあまりなじみのないディベートや討論会はアメリカではふつうに行われ、議論の場で自分の意見を言わないとすごく低く評価されるんです。大人になってからアメリカで暮らすようになった私も、異なる意見を持つ人と議論をたたかわす、というのが子どもの頃から習慣として身についていたらよかったな、と思うことがあります」

 アメリカ人の父と日本人の母を持つ15才のメイは、ためらいながらも否定派の一員に加わる。肯定と否定、4人ずつに分かれた参加者は、アイルランド系、中国系、アフリカ系、ユダヤ系と多様な背景を持ち、メイ以外にも日系のケンが肯定派に入っている。勝敗を決めるのは聴衆の反応で、相手の出方を予想しつつ臨機応変に対応する討論会の場面がスリリングだ。

「原爆をテーマにした児童書を、というのは編集者からの提案です。私自身、『アップルソング』に続いて『星ちりばめたる旗』と『炎の来歴』という戦争3部作にあたる作品を執筆中、日系の女の子と日本人留学生の男の子のカップルが原爆について話し合う場面をまさに書いているタイミングでご提案いただいたので、願ってもない、ものすごくやりがいがあることだとお引き受けしました」

 原爆投下の瞬間だけ切り取るのではなく、そこにいたるまでの経緯や、実験としての側面、日本人がどう受け止めているかについて原爆慰霊碑の碑文や教科書を参照するなど、思いがけない見方が次々提示される。戦争が、今も続くものとして意識させられる。

「アメリカにとって戦争は現在進行形のことです。私個人の考えは投影させすぎないように、肯定と否定の立場を公平に書いています。ぜひ、9人目の参加者として、自分ならどんな意見を持つか考えながら読んでもらえたら」

【小手鞠るい】
こでまり・るい 1956年岡山県生まれ。1993年『おとぎ話』で海燕新人文学賞、2005年『欲しいのは、あなただけ』で島清恋愛文学賞、2009年原作を手掛けた絵本『ルウとリンデン 旅とおるすばん』でボローニャ国際児童図書賞、本作でこの度、小学館児童出版文化賞を受賞。来年1月には、一人の女性の生き方を見つめて描いた母と娘の物語『窓』が発売予定。児童文学の枠に収まりきらない、小手鞠さんの新境地の作品となっている。1992年に渡米しニューヨーク州ウッドストックに在住。

◆取材・構成/佐久間文子

※女性セブン2019年12月5・12日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

小林ひとみ
結婚したのは“事務所の社長”…元セクシー女優・小林ひとみ(62)が直面した“2児の子育て”と“実際の収入”「背に腹は代えられない」仕事と育児を両立した“怒涛の日々” 
NEWSポストセブン
松田聖子のものまねタレント・Seiko
《ステージ4の大腸がん公表》松田聖子のものまねタレント・Seikoが語った「“余命3か月”を過ぎた現在」…「子供がいたらどんなに良かっただろう」と語る“真意”
NEWSポストセブン
今年5月に芸能界を引退した西内まりや
《西内まりやの意外な現在…》芸能界引退に姉の裁判は「関係なかったのに」と惜しむ声 全SNS削除も、年内に目撃されていた「ファッションイベントでの姿」
NEWSポストセブン
(EPA=時事)
《2025の秋篠宮家・佳子さまは“ビジュ重視”》「クッキリ服」「寝顔騒動」…SNSの中心にいつづけた1年間 紀子さまが望む「彼女らしい生き方」とは
NEWSポストセブン
イギリス出身のお騒がせ女性インフルエンサーであるボニー・ブルー(AFP=時事)
《大胆オフショルの金髪美女が小瓶に唾液をたらり…》世界的お騒がせインフルエンサー(26)が来日する可能性は? ついに編み出した“遠隔ファンサ”の手法
NEWSポストセブン
日本各地に残る性器を祀る祭りを巡っている
《セクハラや研究能力の限界を感じたことも…》“性器崇拝” の“奇祭”を60回以上巡った女性研究者が「沼」に再び引きずり込まれるまで
NEWSポストセブン
初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン