消費税増税の是非については横においておくが、10%への増税後、何か大きくこの国、この社会が変わったかと問われれば、「そうでもない」気がする。上記のIMFのニュースがなかったら、「消費税」という題材で何かを発信する人はほぼいないというくらい、無風状態が続いていたように思える。
増税した10月1日、立憲民主党の枝野幸男代表は党会合で「今の消費不況の中でこの暴挙は日本経済全体に深刻な影響を与えるのではないか」と指摘したそうだが、実際はどうだろう。2か月が経ったばかりで観測するのは早すぎるとは思うものの、増税でこんなふうに大変になった、という類のニュースを私は聞いたことがない。増税前は、景気がもっと悪くなる、消費がさらに冷え込むなどなど、行き先を憂う声をたくさん聞いた。が、いざ実施してみたら、拍子ヌケするほど「何も変わっていない」気がするのは私だけだろうか。
FNNが10月19日と20日に行った世論調査で、こんな結果が出ている。「消費税率引き上げ後、買い物を控えているか、控えていないか?」の問いに対し、「控えている」と答えた人が17.9%、対して「控えていない」が80.0%。増税直後でもそんなもんだったよなと、私自身の肌感覚とも合致する数字だ。
この調査では、「消費税率引き上げ前の駆け込みで買い物をしましたか、しませんでしたか?」とも聞いていて、「した」が21.4%で、「しなかった」が78.4%。駆け込みショッピングの模様が盛んにテレビ報道されていたけれども、あれも少数派の動きにフォーカスしたにすぎず、大半は平常心で増税を受け入れていたのだろう。
他に、株式会社リサーチ・アンド・ディベロプメントというところが、増税後1ヶ月後の時点で、全国在住の20~69歳を対象に「消費税増税後の生活」に関する調査を実施している。「消費税増税後の生活に変化を感じているか」尋ねた結果は、半数以上の52.6%が「特に変わらない」と回答。さらに、増税前の調査結果では、「同じようなものならなるべく安いものを買う(43.7%)」「不要不急の出費を抑える(38.0%)」など節約ムードが漂っていたが、今回の調査では「同じようなものならなるべく安く買う」は18.6%、「不要不急の出費を抑える」も20.3%と、そうしたムードが落ち着いてきたことを指摘している。
なぜ今回の増税はこれほどスムースに実施され、増税後の国民は平然としているのか。さまざまな要因が絡んでいることは確かだろうが、素人なりに思うのは「軽減税率が効いた」ということだ。
公明党が主張し、自民党内の慎重論を押し切る形で導入された軽減税率は、前評判こそ悪かった。飲食店でイートインだと10%だが、持ち帰りは8%になり、現場は大混乱、そのための負担も大きく、ダメダメの制度だとさんざん叩かれていた。が、いざ実際に始まってみると、意外なほど混乱が少なかった。そしてなにより、われわれに身近な食料品が基本的に軽減税率の対象になったことが大きかった。
5%から8%への増税負担感は、1円刻みで値段をチェックする人が少なくない食料品で実施されたら結構重いものになっただろう。わずか3ポント、スーパーで計3000円買い物したとして、90円しか違わないわけだが、一つ一つの商品の値段がぜんぶ上昇している状況を目前としたら、それ以上の負担を我々の多くは感じてしまうはずだ。そこを避けた軽減税率の導入は、国民感情の対策としては成功したといえそうだ。
ただ、こうして実施した消費税の増税分は実際どのように使われていくのだろうか。本当に社会保障を支える財源になるのだろうか。そのあたりの不透明感、不信感を抱えながら我々は日々、生活を送っている。今回の増税ではうまく我々の感情をコントロールしたけれども、ナメてかかったら痛い目にあうぞ、とだけは書き添えておきたいと思う。