ビタミンやミネラルが豊富な米を混ぜることで肉質も変わった。成分調査をすると、オレイン酸やリノール酸などの不飽和脂肪酸ほか、いわゆる“うま味成分”が増した肉になるという。私も地元のレストランで焼肉にして食べてみたが、あっさりして脂身がキツくないため、白い炊きたてのご飯と一緒にすると箸がいくらでも進んだ。
ホルスタインは、本来は乳牛であるが、乳が出ないオスを肉用として肥育する。中野さんのような生産者は、生後7、8か月の子牛を買い取り、21、22か月まで育てて出荷する。買い取った時の子牛の重さは、250~300kgほど。それを約14か月かけて800kg近くまで育てる。出荷までに牛に与える飼料用米は、お茶わんに換算すると、およそ4000杯になるという。
ホルスタインは、黒毛和牛のような高級種に比べると、出荷価格が安くなりがちだ。少しでも生産者の収入を増やそうと、JA菊池では、お米を食べて育ったホルスタインのブランド化に取り組む。
「えこめ牛」のブランド名は、米を飼料に混ぜていることと、海外からの輸入原料を減らして輸送にともなう二酸化炭素の排出量を減らす、地産地消で地元の飼料用米を使っているなど「エコ」であることに引っかけたものだ。福岡や熊本県内などに出荷し、すでに高い評価を得ている。2016年には「地下水と土を育む農畜産物等認証制度」に県知事より認証を受けた。
「えこめ牛」の取り組みは、自給率の向上につながるだけでなく、地元の耕作放棄地の有効活用と地下水の涵養もでき、さらには二酸化炭素の排出量の削減と環境に優しく、その上、ブランド化によって生産者の所得アップにもつながる─そんな一石四鳥の取り組みなのである。
撮影/倉田美穂理
※女性セブン2019年12月5・12日号