現在、MDMAなどの合成麻薬、コカインは一般的には「ファッションの延長」で使用する人が多いと言われる薬物だ。前者は大麻より末端価格が安く、2000年代前半には渋谷センター街の露店でも気軽に買えるほどのシロモノで、筆者が通った渋谷のクラブでも愛用者は多かった。一粒摂取すれば高揚感が増し、音楽がよく聞こえたり、異性と関係を持つときなどに利用された。しかし、のちに死者が続出した危険ドラッグ同様、違法な人たちが違法に売りさばく”ブツ”には何が入っているかわかったものではなく、利用者は次第に減っていった。そしてコカインの末端価格は大麻の1.5倍から2倍程度、摂取すればすぐに効果が現れるが、すぐに幻覚作用が消えてしまうために、一部では富裕層のための「セレブドラッグ」などとも呼称される。
筆者の取材によれば、約10年前に危険ドラッグが流行し始めたのは「大麻の取り締まりが厳しくなったため」であった。中には、合成麻薬や覚せい剤よりも安価で“キマる”と危険ドラッグを手にするユーザーもいた。危険ドラッグの規制が強化されると、再度大麻の流通量が増え、摘発件数も急増した。これが何を物語っているのか。
「薬物を取り巻く現状は、おそらくずっと変わっていないし、これからも変わらないでしょう」
以前筆者の取材に応じてくれた元暴力団幹部は、三十年以上前から違法薬物の売買に関わってきた“元売人”である。
「大麻から合成麻薬、そしてシャブという順序で客を落としていけば(引き込んでいけば)金になります。大麻や合成麻薬がなければ、昔はシンナーだったりトルエンを捌いた。最近はそれが危険ドラッグに変わった。売人は客を見て捌き方を変えますから、相手が金持ってて長く付き合えそうならコカイン、たまにシャブ。ガキ相手なら大麻かなんかで釣って、最後はシャブで落とす。落とすといっても、廃人にしちゃ儲かりませんのでうまくやろうとするんですけどね、客がその間に勝手に壊れる。クスリにも流行があるから、今、芸能人が大麻だコカインだってやれば、若い連中にも絶対に流行る。それで規制されて、訳のわからないクスリが出回る。その間にも、シャブに手を出す奴らも必ずいる。このサイクルです」
好奇心が強く付き合いがよい人ほど、深みへと引きずり込まれやすい薬物の問題。どうすれば防げるのか。
「例えば車を運転していて”もっとスピードを出してスカッとしよう”と、助手席に座る友人から言われたらどう思いますか? 危ないし、捕まるのは自分だから嫌だと思いませんか? 結局、薬物に誰かを誘うと言う人は、自己の快楽のために相手を利用してやろうという感覚しかない。そういう人を友達と言えるのか、考えればわかること。薬物の利用者に、生まれた時から薬物が好き、興味があったという人はいない。皆、こうやって取り込まれていくのです」(元売人)
知人友人を無くそうとも、その場の空気を読まなくてもよい。もし自身の近くに”薬物”が現れたら、とにかくその場から離れ、関係をきっぱり絶つことだけが唯一無二の防衛策なのである。