それから1年後。「イスラム国」がシンジャール山から撤退したというニュースが流れた直後、ぼくは再び、彼女を訪ねた。彼女の肉腫は体中に広がっていた。
「ふるさとに帰れるぞ」と話しかけると、ナブラスはニコッと笑った。
「帰ったら、何したい?」
そう尋ねると、消え入りそうな声でこう言った。
「学校に行って、勉強がしたい」
ささやかな夢だなあ、と思った。何とかかなえてあげたかったが、2週間後、ナブラスは14年の生涯を閉じた。
◆15回目のチョコ募金に込められたメッセージ
今回のトルコ軍の侵攻によって、20万~30万人の難民が発生した。このうちの約1万4000人がイラクに入ったといわれている。その大半の1万2000人が、北イラクのバラダルシュキャンプに流れ込んできた。
JIM-NETの事務所は、北イラクのアルビルにある。すぐに、スタッフのリームをバラダルシュキャンプに派遣した。リームも、シリアから逃れてきた難民だ。看護学生だったということでJIM-NETのスタッフとなり、ダラシャクラン難民キャンプで妊産婦や生まれてきた子どもたちの栄養管理、安全な出産に向けてのサポートをしてきた。彼女自身も、難民の男性と結婚し、1人の子どもに恵まれている。