大学入試改革を主導した鈴木寛東大・慶應大教授
そこで、記述式導入について大学入試改革では3本の柱を立てました。1本目は、国立大はすべて二次試験を記述式にする。これで国立大学はこれまで4割だった記述式試験の割合が9割にまで上がった。2本目は、私学の雄である早稲田大学が記述式に変える。そういう改革を強くお願いし、早稲田は自発的な判断で、記述式導入に留まらず、文系でも数学を必須にし、英語も4技能(読む、書く、聞く、話す)を問う試験に変えるなど、入試の大改革をしました。予備校の私大受験指導は早慶受験が基準になるので、早稲田も記述式になると予備校の指導はガラリと変わります。最後の3本目が、共通テストでの記述式導入です。
この3本柱の内、国立大と早稲田大学の2つについてはほぼ達成できました。都市圏では早慶、地方では国立大の影響が大きいので、そうした大学に生徒を送り出す高校の学びは大きく変わるでしょう。しかし、問題はやはり早慶以外の私大です。早慶は独自に記述式試験を実施する体制も能力もありますが、他は難しい。このままだと他の私大を受ける受験生は、相変わらずマークシート向けの受験勉強をすることになる。だから、3本目の柱として、私大も利用する共通テストに記述式を導入しようとしたのです。
◆マークシートを続けてきた弊害
──「記述式試験はトップ校だけに導入すればよく、下位の大学までは必要ないんじゃないか」という意見もある。
鈴木氏:私もそう思っていた時期がありましたが、文部科学省の若手から怒られました。「それは“選民思想”です」と。トップ校の生徒だけAI時代に生き残ればいいというなら、そもそも教育改革などやる必要がない、と。広く多くの若者をAI時代に生き残れるようにしなければと熱く語られて、私も全くそうだと思い、改心しました。大学への進学率は現在5割ですが、2割がトップとして、トップ校だけでいいとなれば(AI時代は)8割が失業することになる。しかし、共通テストに記述式を導入すれば、高校の校長たちが強くその重要性を意識し、大学受験生が学ぶすべての高校の教育が変わり、進学せずに高卒で就職する人たちも含めて恩恵を受けられる。すべてとは言いませんが、全体の8割くらいに影響が及ぶはずです。
──理念としては理解できるが、現実問題として、共通テストへの記述式導入については、「採点のブレが大きい」「バイトでは採点ができない」「自己採点ができないから出願に困る」といった批判が噴出した。
鈴木氏:採点のブレについては、誰がつけるかではなくて、ブレがどの程度に収まるかが大事だと思います。確かにマークシートは100%ブレがなく、記述式ではブレが起きます。現在の国立大の二次試験の入試だって、当然ブレは出ます。共通テストの場合では、1つの答案に対し、採点者3人で採点し、上司がチェックするというのを4層重ねて採点をすることで、ブレを小さくすることになっていました。担当者に聞いてみると、本番の一回目では、1万分の1から1万分の4くらいのブレになるとのことでした。一般に5教科受けて満点は500点として、国語100点分の内、記述式の配点は20点です。つまり、影響は25分の1です。全体への影響としては25万分の1から25万分の4程度。このブレを許容できないのなら、そもそも記述式はできません。