──共通テストではある程度決まった回答しか書けないような問題を設定しているから、ブレが小さいのではないのか。
鈴木氏:「ブレる、ブレる」と言われるから、最初はブレない問題にしているのです。ブレない問題にすると、今度は、「記述式の意味がない」と言われるんですが、どうすればいいんでしょうか(笑)。意味がないことはない。高校生は記述式試験のための勉強を始め、教員もそういう指導をする。その第一歩を踏み出すことに意味がある。
フランスの大学入試「バカロレア」は記述式オンリーで、大問が3つあって、4時間、書いて書いて書きまくる試験です。採点は、高校教師が行っています。当然、採点にブレが起きるだろうと思い、フランスの国民教育省に行って、何度も聞いたんですが、彼らは「採点基準があるから大丈夫だ」としか答えない。しかもバカロレアでは、1つの答案を採点者一人で採点するんだそうです。日本人の感覚だとあり得ない。だから、ブレブレじゃないかと思って何度も聞いたんですが、そのうちに「お前は何が聞きたいんだ」と怒り出し、「人間が書いたものを人間が採点するんだから、バラつきが出るのは当たり前だ」「そんなことより、小論文の家庭教師をつけられる家庭の子とつけられない家庭の子ではもっと大きな点差がつくが、そっちのほうが問題じゃないのか」と叱られました。おっしゃる通りですと(笑)。
──他にも「バイトが採点する」ということも問題視されたが。
鈴木氏:バイト、バイトと言いますが、別にバイトだけで採点するわけではありません。採点者のなかにバイトも入るということです。4層の採点プロセスの中には採点者のプロが多数います。
このバイト問題も、全高長(全国高等学校長協会)が12月末の共通テスト実施に賛成していれば、あるいは高校教師が採点に協力してくれれば、バイトを使わずとも、できたのですが、全高長がどちらも拒んだために必要な採点者が増えて、バイトも活用することになったのです。
それと、面白い話を聞きました。私も、最初、「バイト?」と思ったときがありました。担当者に聞いてみると、民間の模擬試験会社は何十年も模試をやってきて、様々なノウハウを持っています。これまでも、教員OBや現役の教員、大学院生、大学生のバイトを雇って長年にわたり採点をしてきたわけですが、実は、もっとも採点のブレが小さいのは、「優秀な大学の大学生」だそうです。高校の時から記述式試験のための勉強をしっかりやって難易度の高い入試を突破してきた学生ですし、教員と違って指導経験がない分、採点基準を忠実に守るそうです。高校教師は、自分が教えてきた生徒のレベルに引っ張られてしまい、採点基準で示しても、独自の基準で採点してしまう人も多いそうです。なので、バイト云々よりも選抜と研修が重要だそうです。なるほどな、と思いました。
民間事業者は、入試センターから「ブレを最小化しろ」と言われて、あらゆる努力を傾注してきています。バイトを使わないとなると、そもそも12月末にしかできませんし、かつ、採点のブレが大きくなってしまうのです。バイト問題と採点のブレを抑えることとどちらが大切でしょうか?
これを「バイトだからダメだ」というのは印象操作です。ちゃんとスクリーニングして、研修も受けさせて、4階層のチェックをいれても、「バイトがやるのか! けしからん」というイメージをNHKが意図的に先行させた。そうなったら、もう止まらないですからね。