──ある程度裕福な家庭でないと留学なんてさせられない。
鈴木氏:結局はそこなんです。慶應SFC生は、起業も海外で働くのも当たり前。そういう世界がすでにあるわけですから、格差はどんどん広がります。島嶼部の高校生でも、貧しい家庭の高校生でも、公立高校に通って一生懸命勉強すれば、英語でコミュニケーションができるようになり、AIに置き換えられない人材になれる──そういう教育に変えたいと思って改革をしてきた。現に、福島のふたば未来学園などは、がんばって国連にまで行って学んでいる。しかし、現状を変えさせないように抵抗する人たちがいて、すべての改革を潰そうとする。
だからもう、全国規模の改革は諦めて、全国一律のセンター試験を廃止し、各大学が独自に入試を実施する方式にすればいいのではないかと思います。学習指導要領を大括り化し、センター試験をやめるという案はありました。これにも、全高長は反対。大学ごとの入試になれば生徒の個別指導をどうしていいかわからず不安だからではないでしょうか。とにかく現状からビタ一文変えさせないのです。
今回の改革がすべていいとは思いませんし、人間のやることだから完璧だとは思っていません。が、そこまで反対するのなら、20年間、学習指導要領違反を放置してきたという事実をふまえたうえで、対案を示していただきたい。
現状で、学習指導要領に定めてある英語のコミュニケーションに関する授業をやっている高校は3割しかない。それについて、全高長は、実施率を10割に上げるための対案を示していただきたい。英語だけではありません。言語活動の充実という指導要領がありながら、その指導も十分に行えてこなかった。この機会をとらえて、高校教員の質と数を充実しようとしてきましたが、そのプランもこれで頓挫しました。入試を変えることで高校の教育を変えるというのは、本来は邪道なんです。しかし、現場からでは変えられないから、入試から変えるしかなくなったのです。
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鈴木教授の怒りが文面から伝わっただろうか。もちろん、全高長側にも言い分はあるはずで、鈴木教授の主張だけを聞いて肩を持つわけにはいかないが、大学受験を経験した人であれば、「大学入試を変えない限り高校教育は変えられない」という指摘には、深く頷くのではないか。これからの時代を生きる子供たちに、20年前と同じ教育をし続けることが果たしていいことなのか、大人は考えてみるべきだ。
●取材・文/清水典之(フリーライター)