◆夜泣きするのは「暑かった」から
「ぼくが夜泣きした時はだいたい、“暑かった”んですね。夏はもちろん、冬は服を着せられすぎて暑いということも。汗をかいて蒸れた頭がかゆいのも不快でした」(宮崎さん)
兄からその教えを聞いた箱さんは、息子が夜泣きすると、ゆるめに絞った濡れタオルと乾いたタオルでやさしく頭を拭いた。すると、嘘のように息子が眠り始めた。
「兄と私の息子は血縁者なので、体質が似ているのかも。誰にでも当てはまるとは言えないですが、試してみる価値はありますよ」(箱さん)
宮崎さんの記憶は、「怖かったこと」や「不快だったこと」が多いという。なかでも、「どれだけ怖かったことか」と話すのが「おんぶ」だ。
「祖母がぼくをおぶって、小川にかかった丸太橋を渡ろうとするのがすごく怖かった。2cmほどの浅瀬でしたが、“転ばない保証がどこにある!?”という気持ちでした。あとは階段を上るのも怖かった。おんぶが嫌なわけではなく、おんぶで初めての場所を通過するのが怖くて、よく泣いていました」(宮崎さん)
続いて、抱っこしていた赤ちゃんがうとうとし始めたので、ベッドに下ろそうとすると泣き出すというケース。これはよく、「お母さんの心音が聞こえなくなるから」などといわれるが…。
「起こさないようにそっと下ろそうとすると、体が“ななめ”に傾く。あれが不快だったんです。人体の構造的に自分ではできない動きをさせられると、身の危険を感じていましたね」(宮崎さん)
乳幼児は眠りが浅いことも原因の1つだが、その助言をもとに箱さんは工夫。うとうとし始めた息子を下ろす際は、まっすぐ縦に伸びるように抱え、足元から順番に床につけて寝かせると百発百中で静かに眠った。
離乳食を食べない時も「危険センサー」が働いている。
「人が使ったスプーンで食べさせられるのが苦手でした。大人が先に噛んだものを食べさせられるのは本当に気持ち悪かった」(宮崎さん)
現在は衛生的な観点から、こうした食べさせ方は行われないが、昭和の乳幼児は大人が噛んで軟らかくしたものを食べさせられることもあった。ほかにも、離乳食の食感や味が嫌だという好みもあり、いたずらに食べないわけではないようだ。
◆暗がりで蛍が見えない
ただし、本当に危険なのは歩けるようになってからだという。そこには、大人にはわからない子供の「視点」が関係している。
「大人に手を引かれて蛍を見に行った時、ぼくには1匹も見えなかった。子供って、暗いところでは大人のようにはものがあまり見えていないんです。だから、夜の駐車場で車から降りた瞬間は、突然、異次元に来たようで怖かった」(宮崎さん)
屋外の駐車場は、照明が当たっている部分と影になっている部分が混在するため、空間の把握がしづらいのだという。それでパニックを起こし、走り出してしまうと事故につながる恐れがある。