レーシング・ドライバーのジャン=ルイは年を取り、施設に入っている。かつて愛したアンヌの思い出を語り続ける父のために、息子がアンヌを施設に招く。ジャン=ルイは彼女だと気づかない。ただ、昔の恋人への思いを語り続けるだけ。アンヌは自分がこんなにも愛されていたのか、と初めて知る。
二人で愛を確かめ合ったホテルの部屋に行くシーンは、観客も一気にタイムスリップさせられる。時の流れを止めることはだれにもできないが、体のなかにかつての恋人への思いがあふれ、渦をつくり、潮流となっていく。
恋愛そのものが、脳内でつくられた虚構。「嘘」と言えば「嘘」なのだが、人間はその「嘘」がないと生きていけない。
副題の「人生最良の日々」は、ヴィクトル・ユーゴーの言葉から取ったものだという。クロード・ルルーシュ監督の、ぼくたち年をとった若者へのメッセージだと感じた。“いくつになっても恋をしなくちゃだめだ。人生最良の日々はこれからやってくる”そう思わせてくれるだけでも、恋愛映画の金字塔の面目躍如だろう。
仕事か恋愛かの選択を迫られたボクサーがいる。「オリ・マキの人生で最も幸せな日」は実在のボクサー、オリ・マキを描いている。フィンランド映画で、69回カンヌ国際映画祭ある視点部門グランプリを受賞した。ボクサーの映画だからといって、「ロッキー」みたいにアドレナリン全開で、観客の感動を搾り取るようなつくりにはなっていない。
◆こういう嘘が人生には必要なのだろう
彼は、世界選手権でアメリカのチャンピオンと対戦することになった。ショービジネスとなった世界選手権は、ビッグマネーが動く。その大きな渦のなかで、彼は一人の女性を恋してしまう。