打って変わって日本映画、「山中静夫氏の尊厳死」は実に感動的だった。肺がんで肝臓に転移したことがわかった男は、積極的治療を拒否する。その男、山中静夫を中村梅雀が演じている。彼は、自分の思い通りに死んでいこうとして、婿に入った家を裏切る。自分自身に嘘がつけなかったのだ。この男の生き方が実にかっこいい。
嘘がずっと続けばいいなと思ったのは、「コンプリシティ 優しい共犯」だ。技能実習生として来日した中国人の青年は、職場から逃亡して他人の証明書をつくり、山形のそば屋で働き始める。そのそば屋のオヤジを藤竜也が演じている。まるで親子のように関係を築いていく2人。こんな優しい空間があったら、人はどれほど救われるだろうか。
どんなに誠実に生きようとしても、人は嘘をついてしまう。自分に対しての嘘、他人に対しての嘘、どんなに願っても実現しえない嘘。こんな嘘には、道徳で断罪しきれない、生きることの悲しみを感じずにはいられない。今回紹介した映画は、そんな人生の機微を感じるものばかりだった。
そういえば、映画じたいが美しい「嘘」ともいえる。嘘は、現実よりも鮮やかに真実を映し出す。こういう嘘が、人生には必要なのだろう。
●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。著書に、『人間の値打ち』『忖度バカ』など多数。
※週刊ポスト2020年2月7日号