例えば8年前、ドラマ好き女性の間で静かに根強く熱く、話題になったドラマが『はつ恋』(主演・木村佳乃)でした。捨て身で愛に走る木村佳乃さんの演技が、あまりに真に迫っていて凄まじくて怖いほど。仕事先でも知人との会話でもこのドラマの名が出ては話題が盛り上がり、ハマったという女性たちも多かった。まさしく「語り草」のドラマの一つでした。
その後も「ドラマ10」の枠から『お母さん、娘をやめていいですか?』『この声をきみに』『女子的生活』『昭和元禄落語心中』『透明なゆりかご』『トクサツガガガ』『これは経費で落ちません!』……と次々に記憶に刻まれるような個性的な作品が誕生してきました。一回の視聴では簡単に消費できない豊かな味わいのある作品が。
もはや食傷気味だった『プロフェッショナル 仕事の流儀』が終了したその時間帯を、「ドラマ10」にしてくれて本当にありがとう。ドラマを繰り返し視聴する至福と、それを支えてくれる高品質な作品性、エンターテインメント性に感謝。
哲学者ロラン・バルトは、「作者は作品を支配できず、読者に解釈を任せなければならない」と言いました。「テクスト」=作品は一回見たり読んだりしたからといって簡単には消費され尽くせない多義的なもの。何度も繰り返し自由に読まれたり味わわれたりするうちに「テクスト」は作者から読者のものになる。そのことを、バルトは「読者の誕生」と言いました。
もしかしたら、「ドラマ10」の枠から生まれ出た秀作ドラマ群もまた、「新しい視聴者の誕生」を促しているのかもしれません。小説を読むようにして、繰り返し録画を見て何度もその世界を味わう。咀嚼したくなる奥行きと深み、細やかな表現のこだわりや工夫に満ちた「文化的、芸術的作品」としてのドラマから、視聴者はまざまな要素を引き出し創造的に楽しむ。そんなドラマ文化がこの「ドラマ10」という枠から生まれさらに厚みを増していってくれたらいいな、と思います。