ビジネス

『菜根譚』が日本のリーダーたちに愛読されてきたのはなぜか

会社人生の転機はいつ訪れるかわからない

 富士通、東芝、NEC、日産自動車、コカ・コーラボトラーズ、セブン&アイ、朝日新聞、味の素……。平成末から令和にかけて、名だたる大企業のリストラが相次いでいる。業績不振の企業ばかりではない。昨年、過去最高益を出しながら早期退職者募集に踏み切ったキリンHDのように、ここへきて増えているのが、好業績下で人員削減策を実施する「黒字リストラ」だ。対象とされるのは、多くの場合、45歳以上の中高年社員だ。

 中高年にとっては、企業内での厳しい立ち位置を突き付けられた格好だ。リストラを回避して会社に残った場合にも、退職前に管理職を解かれる「役職定年」という試練が待っている。さらに、公的年金だけでは賄えないといわれる老後資金への不安。現代は、中高年受難の時代といえるだろう。

 とはいえ、嘆いてばかりもいられない。先行きの見えないこの困難な時代をどう乗り切っていけばいいのか──。松下幸之助、田中角栄、野村克也ら各界のリーダーたちが、こぞって座右の書としてきた中国の処世訓『菜根譚』があらためて注目を浴びており、この名著を現代向けに再編した『ピンチこそチャンス ~「菜根譚」に学ぶ心を軽くする知恵』(小学館新書)が話題を呼んでいる。この作品の著者で、中国文学者の守屋洋氏に話を聞いた。

 * * *
──そもそも『菜根譚』というのはどういう書物なのか。

守屋:明代の万暦年間といいますから、17世紀の初めごろ、今から400年ほど前に書かれた、処世の道を説いた本です。中国の古典の中では比較的新しい書物といえるでしょう。著者は洪応明(こうおうめい)、字(あざな)を自誠(じせい)といい、明代末期の混迷の時代を生きた人です。若いころ科挙の試験に合格して官吏になったものの、途中で官界を退いて隠棲(いんせい)したとされますが、詳しい経歴などについてはよくわかっていません。菜根譚という題名は、宋代の汪信民(おうしんみん)の言葉に〈人常に菜根を咬みえば、即ち百事なすべし〉とあるのに基づいています。ここでいう『菜根』とは粗末な食事のこと。そういう苦しい境遇に耐えた者だけが大事を成し遂げることができるという意味が込められているといいます。

──今、厳しい状況にある人にとって、励みになる内容だ。

守屋:『菜根譚』にはこんな言葉があります。

〈逆境の中に居れば、周身、皆鍼砭薬石(しんべんやくせき)、節を砥ぎ行いを礪(みが)きて、而も覚らず〉

 逆境にあるときは、身の回りのものすべてが良薬となり、節操も行動も、知らぬまに磨かれていく、という意味です。厳しい状況は、自分を向上させる願ってもない好機といえるかもしれません。

──ものの見方や考え方ひとつで、気持ちがずいぶん変わってくる。

守屋:人生に運不運はつきものです。運に見放されて逆境に突き落とされることもあります。そんなとき、いたずらに身の不運を嘆いていても始まりません。また、自分の責任を棚に上げて、人を怨んでも詮(せん)ないことです。なかには、なんとか逆境から這い上がろうと、じたばた動き回る人がいますが、こういう悪あがきは、いっそう事態を悪化させ、かえって傷口を広げてしまうことが多いように思われます。

 では、どうすればよいのか。『菜根譚』によれば、〈逆に来たれば順に受けです。つまり、「これも天から与えられた試練なのか」と素直に受けいれて、変に逆らってはならないというのです。ただし、その間、ただ漫然と潮目の変わるのを待っているわけではありません。次のチャンスに備えて、じっくりと力を蓄えておくのです。

 反対に、運に恵まれて何ごともうまくいっているときは〈安きに居りて危うきを思う〉。

 いつなんとき壁にぶつかったり、危険にさらされるかわからない。だから常に気持ちを引き締めて、それに対する備えを怠ってはならない、というのです。

関連記事

トピックス

八田容疑者の祖母がNEWSポストセブンの取材に応じた(『大分県別府市大学生死亡ひき逃げ事件早期解決を願う会』公式Xより)
《別府・ひき逃げ殺人》大分県警が八田與一容疑者を「海底ゴミ引き揚げ」 で“徹底捜査”か、漁港関係者が話す”手がかり発見の可能性”「過去に骨が見つかったのは1回」
訃報が報じられた日テレの菅谷大介アナウンサー
「同僚の体調を気にしてシフトを組んでいた…」日テレ・菅谷大介アナが急死、直近で会話した局関係者が語る仲間への優しい”気遣い”
NEWSポストセブン
愛子さま(撮影/JMPA)
愛子さま、母校の学園祭に“秋の休日スタイル”で参加 出店でカリカリチーズ棒を購入、ラップバトルもご観覧 リラックスされたご様子でリフレッシュタイムを満喫 
女性セブン
悠仁さま(撮影/JMPA)
悠仁さま、筑波大学の学園祭を満喫 ご学友と会場を回り、写真撮影の依頼にも快く応対 深い時間までファミレスでおしゃべりに興じ、自転車で颯爽と帰宅 
女性セブン
クマによる被害が相次いでいる(getty images/「クマダス」より)
「胃の内容物の多くは人肉だった」「(遺体に)餌として喰われた痕跡が確認」十和利山熊襲撃事件、人間の味を覚えた“複数”のツキノワグマが起こした惨劇《本州最悪の被害》
NEWSポストセブン
近年ゲッソリと痩せていた様子がパパラッチされていたジャスティン・ビーバー(Guerin Charles/ABACA/共同通信イメージズ)
《その服どこで買ったの?》衝撃チェンジ姿のジャスティン・ビーバー(31)が“眼球バキバキTシャツ”披露でファン困惑 裁判決着の前後で「ヒゲを剃る」発言も
NEWSポストセブン
2025年10月末、秋田県内のJR線路で寝ていた子グマ。この後、轢かれてペシャンコになってしまった(住民撮影)
《線路で子グマがスヤスヤ…数時間後にペシャンコに》県民が語る熊対策で自衛隊派遣の秋田の“実情”「『命がけでとったクリ』を売る女性も」
NEWSポストセブン
名古屋事件
【名古屋主婦殺害】長らく“未解決”として扱われてきた事件の大きな転機となった「丸刈り刑事」の登場 針を通すような緻密な捜査でたどり着いた「ソフトテニス部の名簿」 
女性セブン
雅子さま(2025年10月28日、撮影/JMPA
【天皇陛下とトランプ大統領の会見の裏で…】一部の記者が大統領専用車『ビースト』と自撮り、アメリカ側激怒であわや外交問題 宮内庁と外務省の連携ミスを指摘する声も 
女性セブン
今年の6月に不倫が報じられた錦織圭(AFP時事)
《世界ランキング急落》プロテニス・錦織圭、“下部大会”からの再出発する背景に不倫騒と選手生命の危機
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さんの胸キュンワンシーンが話題に(共同通信社)
《真美子さんがウインク》大谷翔平が参加した優勝パレード、舞台裏でカメラマンが目撃していた「仲良し夫婦」のキュンキュンやりとり
NEWSポストセブン
兵庫県宝塚市で親族4人がボーガンで殺傷された事件の発生時、現場周辺は騒然とした(共同通信)
「子どもの頃は1人だった…」「嫌いなのは母」クロスボウ家族殺害の野津英滉被告(28)が心理検査で見せた“家族への執着”、被害者の弟に漏らした「悪かった」の言葉
NEWSポストセブン