──『菜根譚』は昔から日本の偉人やリーダーたちに愛読されてきた。時代を超えて読み継がれる魅力は、どんなところにあるのか。
守屋:中国の古典というのは、直接間接に処世の道を説いたものが主流ですが、『菜根譚』はその中にあって、他の本にはない大きな特色を持っています。それは、儒道仏、すなわち儒教と道教と仏教の三つの教えを融合し、その上に立って処世の道を語っていることです。
儒教がエリートの思想であるとするなら、道教は民衆の思想、その二つに欠けていた悩める心の救済を担ったのが仏教です。この三つの教えを融合したことで、『菜根譚』には独特の味わいが醸し出されています。
たとえば、悠々自適の心境を語りながら、功名富貴(こうみょうふうき)も否定しない。また、厳しい現実を生きる処世の道を説きながら、心の救済にも多くの言葉を費やしている。隠士の心境に共鳴しながら、実社会に立つエリートの心得を説くことも忘れない。
そのため、『菜根譚』は、読む人の境遇によって、受け取り方がずいぶんと違ってくるのです。厳しい現実の中で苦闘している人は、そこに適切な助言を見出すかもしれません。不遇な状態に苦しんでいる人は慰めと励ましを受けるでしょう。心のいらいらに悩まされている人は大いなる安らぎを与えられるのではないでしょうか。それぞれの境遇に応じて得るものがきっとあるはずです。