今、メディアで話題になっているのは、ある俳優の不倫話だ。長身のイケメン俳優が、妻の妊娠中に若い女優と不倫をしたという。

 こんなに大騒ぎになったのは、彼の“まじめな好青年”というキャラクターに関係があるのだろう。以前、ベッキーの不倫スキャンダルで、世の中が大騒ぎしたのとよく似ている。そして、こんなにも多くの人がこの話題に参戦したがるのは、「物語」がわかりやすいからだ。一見、清潔そうな人間が実は“悪者”だった、という単純な物語には、深みも重みもない。

 そもそも、この世の出来事や現象は、「不条理」だ。そこに法則や理論を見つけるのが科学であり、ストーリーを見つけるのが文学である。

 人間は意味のないことのなかから、意味を見出そうとしてしまう。夜空を見上げ、星の配置にも星座という物語をつくり、星の運行に規則性を見出してきた。天井のシミにさえ、意味を見つけようとしてしまう。

 でも、世の中を覆っている物語が、安易で薄っぺらい物語ばかりだとしたら、ちょっと寂しい。それならば、いっそ意味に支配されない「不条理」な絵本のほうがいい。ゴーリーが根強い人気を保っているのは、薄っぺらい現実の物語を吹き飛ばしてくれるからではないか。

 ゴーリーの世界は、スキマがいっぱいあり、不条理の世界をユーモアたっぷりに提示してくれる。いろいろな解釈を受け入れてくれ、自分らしい生き方を見つけるためのヒントをくれる。

 少なくとも、安易な物語に飛びつくよりも、ずっといい。

●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。著書に、『人間の値打ち』『忖度バカ』など多数。

※週刊ポスト2020年3月13日号

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