「マスク品切れ」と表示されたコンビニの商品棚(時事通信フォト)

「マスク品切れ」と表示されたコンビニの商品棚(時事通信フォト)

 フィギュア人気のイメージは強いが、ドールについては印象が薄いかもしれない。しかし女性コレクターが多く、百貨店で売られた限定版は希少価値が高いと世間を騒がせたこともある。それらを買うための並び屋は派遣屋に頼むと普通に調達できるという。ネットの限定商品も一人何点と制限が掛けられているものが多いが、金田さんは親類縁者のアカウントはもちろん、偽アカウント、死んだ人のアカウントまで駆使している。死んだ曾祖父さんや曾祖母さんなどのアカウントも使う。それどころか、その辺の老人のアカウントも使う。

「偽アカウントはすぐ削除されるから使い捨てで繰り返すしかないけど、老人のアカウントが一番いいね。老人はネット通販やらない人が多いから。それに小銭で協力してくれる。俺は田舎で親戚が多いから、そっちも駆使する。外国人使う大規模なのはやらないしオタク相手の小商売ならこれで十分」

 親戚はともかく、そんな老人の協力者がいるのかと聞くとたくさんいるというから驚きだ。年金暮らし、少しでも生活の足しにしたいということか。その後、寝たきりや認知症になったらなおさらラッキーだという。住所はいくらでも転送できるし、そんな転送業者や私書箱屋など掃いて捨てるほどいる。そもそも老人の家と仲良くしておけば何にも問題ないという。親戚ならなおさら。しかし、アカウントは運営からマークされないのか?

「そんなのイタチごっこだよ。それに大きな商いはしないからね。目立たないようにあくまで生活できる程度にやる。しかも自前のネットショップならまったく問題ない。オタク相手は小商いでニッチでも商売になるのがいい、あくまで生活できる程度、だけどな」

 生活できる程度と言っても金田さんのマンションはこの汐留だという。賃貸のワンルームだとしても結構な家賃だ。倉庫代わりのボロ屋を勝どきにも借りているという。それなりの収入にはなっているのだろう。

「だからマスクはやってみただけ。でも100万儲かった。右から左でおいしいだろう?」

◆マスクが足りないのは俺のせいじゃないだろう

 儲かったという言葉にはフカシも入っているかもしれないが、マスクを右から左で100万円とは。マスクに関する義憤だけでなく、私もとある限定のフィギュアが欲しかったのに手に入れられなかったこと、妻も大好きなドールを手に入れられなかったことを思い出して、内心、苛立った。思わず「良心は痛まないのですか?」と我ながら陳腐な言葉を投げかけてみたが、案の定、金田さんは笑った。

「それはおかしいよ日野さん、努力した人が手に入れるのは当たり前じゃない。日野さん夫婦より俺の努力が勝っただけだお」

 古臭いネットスラングの語尾「だお」までつけられて脱力するしかない。

「希少なものを高く売る、当たり前じゃないか。オークションだってそうだろう? ぶっちゃけ卸売業だって転売屋みたいなもんだ。それにさ、俺みたいなのはいっぱいいるわけ、さっきも見せたけど、マスクだけでもこれだけの連中が売ってるわけさ。大手フリマなんかそんなのばっかりだよ、目の前にいる俺だけとやかく言うのは筋違いさ。それに俺なんか全然たいしたことないよ、組織だったら何千マンどころか億稼いだのもいたんじゃない?」

 卸売業者は転売屋と違い買い占めで価格操作を狙ったりしないし、不当な高値で販売もしない。ここで彼が話す内容に、ネットでメジャーな転売品目のチケットが含まれていなかったため聞いてみた。すると、また笑われた。

「チケットはやってないよ、あんなめんどくさいの、それに捕まっちゃうだろ。怖い筋の人たちなら別だろうけど、いま本当に厳しいからね」

 もともと迷惑防止条例でダフ屋行為は禁止されてきたが、チケット転売については非難する声は大きかったものの野放しに近かった。だが2020年東京五輪を前にチケット転売禁止法が成立し、昨年から違法行為となった。違反すれば懲役や罰金が科される。金田さんは無理なことはしない主義だという。あくまで生活できる程度、ということか。

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