開き直られた。では、金田さんに将来的な展望はあるのか聞いてみる。

「転売がいつまでもできる仕事じゃないのはわかってるよ。だからオタク向けの小売りにシフトしようと思ってるけど、そんなの儲からないんだよね。オタク向けの商品ってまともにやると実は儲からない。流行り廃りが激しいから在庫が読めないし、大量ロットで不良在庫を抱えることもある。転売なら小ロットで利益率も高いからね。だから転売のストアと普通のストア、ディスカウントショップを並行して経営して、ゆくゆくはまっとうなネット店舗で安定することかね。俺、こう見えて転売だけじゃなく卸業者との付き合いもあるし、古物商の免許も持ってる。日野さんが思うよりはまともにやってるんだよ」

 さっきより穏やかな口調だ。金田さんの仕事をそのまま記事にするとネットでは反感を買うと思うが、ありのまま書いても問題ないかと聞けば、「どうぞご自由に」と笑われた。

 団塊ジュニアも上はアラフィフとなり、各業種からの退場を余儀なくされ始める年齢となった。出版が特殊なのではなく、現に業績が悪くない企業も40代を狙ってリストラや希望退職、配置転換を実施している。完全に終身雇用の崩れた21世紀に中高年を迎えてしまった団塊ジュニアには、上の世代には考えられもしなかった地獄が待っているだろう。とくに男は悲惨だ。資格も特技も持たない中高年の男などアルバイトすらままならないのが現実だ。金田さんの仕事は褒められたものではないが、それで食えるならと金田さんを支持する者も、実は同じようなことをしている人も少なくはないだろう、現にネット上には金田さんの言う通り、批判があろうとたくさんの転売屋が横行している。ストアを構えて商いをしている。彼らとて一人ひとりは生身の人間であり、それぞれの事情で転売に手を染めている。

 このインタビューを終えてすぐ、マスクどころかトイレットペーパーも店頭から姿を消しはじめた。やがてナプキンやおむつも。後者はそれほどでもなかったが、トイレットペーパーはデマの拡散によって本当に消えた。トイレットペーパー類の生産はほとんど国内、静岡県富士市など有名だし小学校の社会科で習うレベルの話だが、みんなどうしたことか。そして国民生活安定緊急措置法に基づき転売を禁止する方針が発表され、今回のケースに適用できるよう政令改正が閣議決定された。違反すると5年以下の懲役か300万円以下の罰金を科される。私は気になり金田さんに電話してみた。無視されるかと思ったがあっさりつながった。

「トイレットペーパー? やらないやらない。あんなかさばるものめんどくさいよ。でっかい倉庫使うとか本格的に業者と組まないと無理じゃないの? あとは小遣い稼ぎの主婦とかガキがやるくらいでしょ。オークションサイトなんてそんなのばっかりじゃない。あのときも言ったけど、マスクも最初だけだからもうやってないよ」

 今回のコロナウイルスの騒動で転売したのはマスクだけ、それも最初だけ。本当かどうかわからないが。

 かつて金田さん的な転売ヤーによる買い占めによってフィギュアやドールを買い損ねた経験がある私と妻は、どうしても儲けを目的に転売する人が許容できない。オタクグッズだと共感してくれる人は限られるが、マスク転売について苦々しく思う人は多いだろう。違法でない限り彼らの自由だし、儲かるし品薄なものの販売は助かるのに転売を拒否するなんてと呆れる人もいるかもしれないが、やはり許せない気持ちを抱いてしまう。と同時に、金田さんのようになるかもしれない、なっていたかもしれない自分がいると気づき、恐ろしくなった。元同業なので、彼の勢いのよさに苛立つと同時に、正直辛かった。団塊ジュニア中高年の転落は一瞬だ。とはいえ、目の前で転びそうになっている人に、何ができるのか。中年独身男「無敵の人」に有効な手段を提示できず、綺麗事以外言えない自分もいる。

●ひの・ひゃくそう/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ正会員。ゲーム誌やアニメ誌のライター、編集人を経てフリーランス。2018年9月、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。2019年7月『ドキュメント しくじり世代』(第三書館)でノンフィクション作家としてデビュー。12月『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)を上梓。

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