妹島和世さんがデザイン監修者を務めた日立駅。太平洋を望むロケーションとモダンな駅舎が人気
辰野金吾は別格として、鉄道省が所管していたこともあり、鉄道駅のデザインの多くは鉄道省の技術職員もしくはOBが手掛けることが圧倒的だった。関東大震災で消失してしまった初代上野駅の駅舎は鉄道省の前身である工部省の三村周がデザイン。再建された2代目の上野駅舎も鉄道省の酒見佐市と浅野利吉が担当した。
駅舎の設計は鉄道省の独壇場だったため、私鉄も鉄道省の力を借りるほどだった。東武鉄道の東武浅草駅や南海電鉄の難波駅、近鉄日本鉄道の宇治山田駅は鉄道省で初代建築課長を務めた久野節がデザインした。
鉄道省の技術職員が活躍した時代を駅舎デザイン第1期とすれば、現在は第2期といえる。駅舎デザイン第2期にあたる現在は、鉄道省の系譜を引き継ぐ国土交通省職員や鉄道会社社員が駅舎のデザインを描画することはない。
高輪ゲートウェイ駅をデザインした隈研吾さんは、ほかにも2008年にリニューアルしたJR東日本の宝積寺駅、2015年に新装した京王電鉄の高尾山口駅を設計。
建築界の大御所として知られる安藤忠雄さんも2011年に東急電鉄の上野毛駅、2015年に豊橋鉄道の三河田原駅、2019年にJR九州の熊本駅をデザインしている。
高輪ゲートウェイ駅のように、近年は著名な建築家が駅舎のデザインする潮流が生まれているのだ。
このほど全線復旧を果たした常磐線にも、有名建築家が手がけた駅舎がある。それが、茨城県にある日立駅だ。日立駅は、2011年にリニューアルを果たした。同駅の外観は全面ガラス張りになっており、太平洋を一望できる。日立駅に降り立つと、ここが駅ということを忘れて、いつまでも海を眺めていたくなるような気持ちにさせられる。
2010年に建築界のノーベル賞といわれるプリツカー賞を受賞している妹島和世さんがデザインした日立駅は、鉄道雑誌や建築雑誌といった専門誌のみならず、旅行雑誌・ファッション誌などでも頻繁に紹介された。それが、さらに話題を呼びことにつながり、現在は駅そのものが観光名所化している。それほど、日立駅は素晴らしい空間に生まれ変わった。
「以前の日立駅は、バリアフリーの観点から改築が課題として浮上していました。老朽化していたこともあって新たに駅舎を建て替えることになりましたが、その際にデザインコンペを実施し、応札した5社のうち妹島さんのデザイン案が採用されることになりました」と経緯を説明するのは日立市建築指導課の担当者だ。