「なぜ観続けられるのか」を考えた末、鴨頭の講演と『人志松本のすべらない話』の共通点に気づいた。この2つは日常の些細な発見を人前で話しても耐えられるクオリティに仕立て上げている。異なるのは話のゴールだけで、『すべらない話』では笑いがオチとなり講演の場合は感心が結末となる。

 鴨頭は「いつもニコニコしていた方が良い」といった当たり前のことを話す。そして、日常で起きた出来事から「ニコニコしていた方が良い」理由をわかりやすく伝える。エピソードトークから伝えたい結論に繋げる能力に長けている。当たり前のことを感心しやすい形に整えて話しているのだ。

 そして、テンションが高い語り口は啓蒙的だが、攻撃性は弱い。落語の人情話のように「じわぁ」と心に染み込ませていくスタイル。否定はせず、肯定することで聞き手を引きつける。弱者の目線から語られることも多い。寄り添い型の講演スタイルである。端的に言うと、観ている人の気分を良くする。僕でもそんな瞬間があったわけで、鴨頭の思想に似たものを持っている視聴者への効能は抜群だと考えられる。

 もうひとつ特徴的なのは「鴨チューバー」と呼ばれる鴨頭の熱烈なファンが動画にたびたび登場することだ。彼らは鴨頭のたわいない小咄にも大爆笑する。講演動画にはかなりのホームアドバンテージを得た鴨頭の様子が収録されている。周りをイエスマンで固め、反応しない自分がおかしいと感じさせる古典的な手法である。バラエティ番組における「笑い屋」と同じだ。どんな些細なことにも爆笑するスタッフを収録に参加させ、演者を乗り気にさせる。放送用の音声ではさらに笑い声を追加し、番組が盛り上がっていると演出する。

 鴨頭の動画を観て再確認したが、この手法はテレビ番組だけでなくYouTubeにおいても意外なほどに効力を持つ。動画の中で過敏に反応している人がいると、「おいしい話」を聞き逃したくないといったスケベ心が反応する。ついつい、コチラの耳を傾けさせる力を持つ。

 しかし、最後まで掴めなかったのが鴨頭の講演を聴くメリット。「共感はできないが視聴した」といった僕のような立場だと何か明確な効能を欲してしまう。例えばホリエモンの場合、鴨頭との対談で「(自身のオンラインサロンで)オレはめちゃくちゃ儲かる話しかしてないけどね」と語っていた。読者は“儲け方”を知ることが出来る。若くして億万長者となり、世間を騒がせたホリエモンのコンテンツらしいメリットである。

 そういった観点から捉えると、鴨頭は他のオピニオンリーダーと比べて物足りない。誰もが知りうる背景がない(マクドナルドの店長としてすごく優秀だったらしいが)。講演家として世間に登場し、表現されるモノは講演である。講演の動画の広告に年間3億5千万円以上を費やし、知名度を獲得していった人である。講演で儲け、講演を広告し、講演家として有名になった。一視聴者からすると講演だけが循環しているように映る。観る側のメリットがイマイチ伝わってこない。とはいえ再生回数などを観ると、今も人気は上昇中のようだけど……。

 こんな話を僕が通っている床屋のマスター(鴨頭の講演に何度も行ったことがある)に話すと「鴨頭さんの話は経営者向け、アナタに向けて話してないから! そりゃ響かないでしょ!」とツッコまれてしまった。マスターは鴨頭の講演から「仕事で溜まった怒りをいかに処理していくか」を学んだと話す。また、経営者になると誰からも注意されないか“御山の大将”になりがちなんだよ、助言をしてくれる鴨頭さんのような存在はありがたい、と続く。肯定&助言がマスターを「鴨チューバー」に仕立て上げたのだろう。

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