暴力団排除条例が施行されると、M氏の元にも警察からの問い合わせがあったという。
「名刺作ってますよね? と、もう調べてあるような口調でした。だからヤクザさんからの受注があっても最初は断っていたんですけどね、向こうも名刺が作れなくて困ってるということで……。関係者が経営している別の企業から受注した形にして、裏でこっそり作りました」(M氏)
こうして、暴力団の名刺すら作ることも難しくなり、以前のようにばら撒かれることも少なくなった。一方で、ネットオークションなどでは暴力団の有名幹部の名刺が販売されるようにもなり、偽の名刺まで登場する始末だ。現役暴力団幹部の解説。
「幹部クラスになれば金メッキの代紋バッジを所有していることからもわかる通り、代紋はヤクザの“看板”です。代紋の刺青を入れる若い衆もいるし、代紋入りのグッズといえば、焼酎に限らず、灰皿や携帯ストラップ、ネクタイピンなど多岐にわたり、組員や関係者の間での需要はそれなりにあるのです。今では代紋入り名刺を配っただけでアウトとか言われていますが、同業者間でのやりとりは普通にあります。代紋グッズの製造で回しているような業者も以前はありましたが、条例でほとんど潰れました。今ではコッソリ闇製造しているからか、価格も高い」
先の元ハンコ販売店業者・M氏も続ける。
「名刺に限らず、代紋入りの商品は需要がある以上、そしてそれなりの実入りになる以上、製造を請け負う人がゼロになる可能性はありません。暴力団のような反社会勢力と付き合うなとお上に言われても、我々にとっちゃ、彼らは単なる客。古い人になればこの感覚はより強く、なあなあの関係を維持している」(M氏)
代紋入りの焼酎も名刺も、暴力団を許さないという社会的な空気が醸成されつつある我が国において、決して見逃せないものではあるかもしれない。ただし、その需要が確実に存在する以上、モラルだけ振りかざしておけば解決するという問題ではなく、同じような事例が全く“ゼロ”になる可能性は考えにくいだろう。