思い起こしてみると、始点を生き物の営みに依存する酪農という産業は、これまで様々な困難に遭ってきた。過剰生産による生乳廃棄命令、地震の停電による搾乳困難、O-157による風評被害、夏場の牛乳不足、一時的な脱脂粉乳ブーム。バター不足なんていう事もあったし、かと思えば『牛乳は体に悪い』という学者の一つの説が勝手に独り歩きしたこともあった(これについて個人的には、アレルギーや乳糖不耐症の人は体質なんだから飲めないなら無理する必要はないし、健康な人だって摂りすぎたらそりゃ何だって体に悪かろうよ、としか言えない)。
牛飼いの娘として個人的経験を述べると、「牛乳って脂肪入ってて太るから飲まなーい」と言いながら、一方で生クリームをゴッテリ盛ったパンケーキに歓声を上げる女性の後頭部をスパンと一発ぶっ叩いてやりたくなったこともあったが、これもまた辛抱してきた。
結局、なんだかんだで酪農家も乳業メーカーも、これまでの経験から結構打たれ強くなっているのだ。ありがたいことに今回の給食停止に関しては政府から補助金も出るという報道もあったし、何より驚きつつ嬉しかったのは、一般の人たちがSNS上で給食牛乳の余剰を憂い、牛乳・乳製品の消費を呼び掛けたり、それらを使ったレシピを積極的に公開してくれていることだ。
牛乳・乳製品は栄養豊富であるうえ、ストレス軽減の作用もあるとされる。今回の騒動で家に閉じこもらざるを得ない子どもたちも、温かいホットミルクでも飲んで、心穏やかに過ごして欲しいと思う。
そして、繰り返しになるが、酪農に限らず、農業というのは人間以外の生き物の命に拠っている。農産物を捨てるというのは、命を捨てるということに等しい。今は非常時、人命が最優先、ということは大前提として、『少しでも食品の廃棄を少なく』ということは新型コロナウイルスの終息後もぜひ人々の頭の片隅に置いておいてほしいと個人的には願っている。
◆羊毛を使って贅沢な時間を
ここでひとつ、家で大人しく過ごすことを余儀なくされたお子さんたちに、羊飼いとして提案したいことがある。羊が生み出すものはなにも肉だけではない。毛を使って色々遊んでみるのはいかがだろうか。