◆投稿者は特定できると皆に知ってもらいたい
誹謗中傷犯を訴えるにあたり、まずは投稿者の身元を特定しなければならない。春名さんと弁護士はまず、両親を中傷した投稿者に狙いを定め、プロバイダーに対し、住所や氏名を開示するよう依頼する「発信者情報開示請求訴訟」を起こした。春名さんの担当弁護士でサイバーアーツ法律事務所代表の田中一哉さんはこう話す。
「ネットの誹謗中傷事件では、発信者を特定するまでがもっとも大変。特に本件は、犯人がいくつものプロバイダー業者を介して書き込みしていたため、特定までに手間と時間がかかりました。これを個人で行うのは不可能に近い。専門知識のある弁護士に頼んでください」
そして、1年後の2019年11月、プロバイダーから投稿者の住所と氏名が開示された。
「ネット上の誹謗中傷犯は不特定多数の人を味方につけて、姿も見せず、ぼくを攻撃できる。つまりこれまでは、見えない敵から殴られるだけのサンドバッグ状態でした。でも、身元がわかり、相手を現実世界に引っ張り出せたいまは、ようやく対等に闘える。本当にうれしく思いました」
しかしこの朗報と同時期に、もっとも訴えたかった相手を逃してしまう。爆破予告が3年の時効を迎えたのだ。春名さんはこのときの思いをブログでこう綴った。
《時効って何なんだろう。時が経ち、やった側が忘れても、やられた側の傷が癒えることなんてないのに。少しでも子どもたちに安全なインターネットを残したい。同じような想いをする人が、ひとりでも居なくなりますように》
侮辱罪の時効は1年、名誉毀損は3年と時効が短い。また、ネット上の通信記録は3か月もすると自動的に消えてしまうので、訴えようとしている間に証拠が消えてしまう。とにかくスピード勝負なのだ。
◆警察が告訴状を返送 でもあきらめない!
せめて、両親を侮辱した人だけはしっかり罪を認めてほしいと、年が明けて今年1月、民事訴訟に踏み切った。
「こういったケースでは通常、民事訴訟を提起する前に、いわゆる示談で終わることも多いのです。しかし本件の加害者はすでに示談金の支払期日を無視。それで、刑事告訴もすることにしました」(田中さん)
示談なら、慰謝料を支払えばそれで解決する。しかし刑事告訴なら、氏名が公表され前科がつく。春名さんは、そこまでした理由をこう語る。
「実は、発信者情報開示請求訴訟の提起後、相手から示談の提案がありました。ただし、“示談金は払えない”の一点張りで、反省の色も見えない。お金がないなら払えるように頑張って働いてほしかった。それほどの罪を犯したのですから」
同様の被害を受けている人たちへの思いもあった。
「誹謗中傷をした人が逮捕されて実名が報道されれば、軽い気持ちで誹謗中傷する人は少なくなるだろうと思ったんです」
しかし、ここで思わぬことが起きた。彼女の地元の神奈川県警が告訴状の受け取りを拒否したのだ。