ライフ

夕焼けとばあばの笑顔が名物 どこか懐かしい西日暮里の角打ち

賑わう“昭和のお茶の間”にはハナエさんの孫による習字の展覧会も

 日暮里駅から谷中銀座方面へ緩やかな御殿坂を上っていくと、夕焼けの名所で「夕やけだんだん」と呼ばれる階段の上へ出る。36段あるこの大きな階段は、いか焼き屋、惣菜店、飴屋などどこか懐かしい雰囲気の店がひしめく下町の商店街への入口だ。

 昭和30年代かのような郷愁を帯びた景色の中、階段のすぐ手前に店を構えるのが『大島酒店』だ。ばあばと慕われる大島ハナエさん(80歳)が、毎夕お帰りとばかりに客たちを迎え入れてくれる。

「『夕やけだんだん』の下は台東区谷中、こちら (上)は荒川区西日暮里。“西日暮里三丁目の夕日”も名物だよ(笑い)」(50代、金融業)。

 軒先に蒼いパラソル、遠くの空は茜色。開いたままの自動扉の向こうで「ばあばに会いたくて急いで帰ってきた」という地元客で連日賑わう。

「ばあばは毎晩飲みすぎるボクを時に厳しく叱ってくれる」(50代、写真家)、「俺は下戸なのにばあばに会いたくて仕事帰りについ寄ってしまう」(50代、鉄道関係)と着物姿の仲良し常連客。

「ここは昭和のお茶の間のようでしょ?やさしいばあばがいて我が家より安心できる茶の間。人間模様がまたいいんだ」(50代、金融業)、「キミ(ばあば)がいるからボクがいる。何も詮索しないのがいいんだ。ここが1番楽しい我が家。令和2年は1日しか休んでいません!」(ほぼ皆勤賞の70代)とぺろりと舌を出して笑う常連客などが、続々とやってきてはハナエさんを取り囲む。

 店内には、そこかしこに習字が展示されていて、これらは蓮向かいに住むハナエさんの孫による作品だそう。そして、もう一つ、酒の棚には年季の入った額縁が恭しく飾ってある。

「これはね、うちの店の流儀なの。30年ほど前に近所に住んでいた中学校の校長先生が書いてくださったの」とハナエさん。

 題して『立飲H氣等(たちのみエチケット)』。

・前金男之証拠(まえきんおとこのしょうこ)
・借金不縁之因(しゃっきんふえんのもと)
・喧嘩口論以外(けんかこうろんもってのほか)
・放歌高吟不好(ほうかこうぎんはよくない)

「このエチケットとやさしくて厳しいばあばがいるから、この店に通う人は、みんな礼節をわきまえていて安心して飲めます」(50代、金融業)

「エッチじゃないよ、エチケットだよぉ」とちゃちゃが入り、客たちがどっと沸く。

関連キーワード

関連記事

トピックス

ヴィクトリア皇太子と夫のダニエル王子を招かれた天皇皇后両陛下(2025年10月14日、時事通信フォト)
「同じシルバーのお召し物が素敵」皇后雅子さま、夕食会ファッションは“クール”で洗練されたセットアップコーデ
NEWSポストセブン
高校時代の青木被告(集合写真)
【長野立てこもり殺人事件判決】「絞首刑になるのは長く辛く苦しいので、そういう死に方は嫌だ」死刑を言い渡された犯人が逮捕前に語っていた極刑への思い
NEWSポストセブン
ラブホテルから出てくる小川晶・市長(左)とX氏
【前橋市・小川晶市長に問われる“市長の資質”】「高級外車のドアを既婚部下に開けさせ、後部座席に乗り込みラブホへ」証拠動画で浮かび上がった“釈明会見の矛盾”
週刊ポスト
米倉涼子を追い詰めたのはだれか(時事通信フォト)
《米倉涼子マトリガサ入れ報道の深層》ダンサー恋人だけではない「モラハラ疑惑」「覚醒剤で逮捕」「隠し子」…男性のトラブルに巻き込まれるパターンが多いその人生
週刊ポスト
問題は小川晶・市長に政治家としての資質が問われていること(時事通信フォト)
「ズバリ、彼女の魅力は顔だよ」前橋市・小川晶市長、“ラブホ通い”発覚後も熱烈支援者からは擁護の声、支援団体幹部「彼女を信じているよ」
週刊ポスト
新聞・テレビにとってなぜ「高市政権ができない」ほうが有り難いのか(時事通信フォト)
《自民党総裁選の予測も大外れ》解散風を煽り「自民苦戦」を書き立てる新聞・テレビから透けて見える“高市政権では政権中枢に食い込めない”メディアの事情
週刊ポスト
ソフトバンクの佐藤直樹(時事通信フォト)
【独自】ソフトバンクドラ1佐藤直樹が婚約者への顔面殴打で警察沙汰 女性は「殺されるかと思った」リーグ優勝に貢献した“鷹のスピードスター”が男女トラブル 双方被害届の泥沼
NEWSポストセブン
出廷した水原一平被告(共同通信フォト)
《水原一平を待ち続ける》最愛の妻・Aさんが“引っ越し”、夫婦で住んでいた「プール付きマンション」を解約…「一平さんしか家族がいない」明かされていた一途な思い
NEWSポストセブン
公務に臨まれるたびに、そのファッションが注目を集める秋篠宮家の次女・佳子さま(共同通信社)
「スタイリストはいないの?」秋篠宮家・佳子さまがお召しになった“クッキリ服”に賛否、世界各地のSNSやウェブサイトで反響広まる
NEWSポストセブン
司組長が到着した。傘をさすのは竹内照明・弘道会会長だ
「110年の山口組の歴史に汚点を残すのでは…」山口組・司忍組長、竹内照明若頭が狙う“総本部奪還作戦”【警察は「壊滅まで解除はない」と強硬姿勢】
NEWSポストセブン
「第72回日本伝統工芸展京都展」を視察された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年10月10日、撮影/JMPA)
《京都ではんなりファッション》佳子さま、シンプルなアイボリーのセットアップに華やかさをプラス 和柄のスカーフは室町時代から続く京都の老舗ブランド
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 電撃解散なら「高市自民240議席の激勝」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 電撃解散なら「高市自民240議席の激勝」ほか
NEWSポストセブン