客たちに絶大なる人気の焼酎ハイボール
ハナエさんと客らがのんびり語り合うのを見守りながら、てきぱきと店を切り盛りするのはハナエさんの息子で4代目の大島充功(みつのり)さん(56歳)だ。
「物心ついたころから角打ちをやってました。初代は下(商店街)で酒や味噌、炭なんか売ってる店をやっていて、昭和初期にこっちに来たようです」と充功さん。
「店は息子が継いでくれたから、今の主(あるじ)は息子だけど、まだまだ私が主役みたいよ」と微笑みながら話すハナエさんの目線の先には猫の写真が。
ハナエさんと人気を二分していたのが看板猫のミースケだ。テレビ出演歴もあり界隈では有名な猫だったが、昨秋18歳で旅立った。白い毛並みに黒い模様のある日本猫で、店先でお客さんを迎えていた招き猫だった。
「ばあばとは心の付き合い」という谷中在住30年の常連女性客は「軒先でミースケとばあばと、みんなで夕日を見たこともあったね。父が亡くなった時は横でじっと話を聞いてくれたっけ。ばあばはいつもお客さんを静かに見守っている」(50代、調理関係)としみじみと語る。
いつも夕暮れ時に寄るという客が「ここから見える夕日は胸に迫る赤でしょう?ほのぼのした橙色、心が浮き立つ桃色、季節で色が変わるんですよ」(40代販売業)と教えてくれた。
西日暮里三丁目の夕日はすっかり沈み、店の灯りがぼうっと浮かび上がる宵の口。
「上京した息子に会いに来るたび年6回は松山から通っています」(50代、教員)という遠方からの客も加わって満員御礼。熱気を帯びたばあばの茶の間で客たちに人気なのが焼酎ハイボール。
茜色に頬を染めた男性客は、「甘くないこの味とばあばの魅力はクセになるね。今日は10年で一番楽しい夜」(50代・通信業)と本日何本目かの焼酎ハイボール缶をプシュっと開けた。