U氏が先に示したように、この業界には特殊な事情を抱えた女性従業員が少なくない。彼女達の生活は、もう既に破綻している。

「60分のサービスで、私が受け取ることができるのは大体8千円程度。普段は週に4日シフトに入り、1日3万円ほどの収入がありました」

 都内の店舗に勤務する百合奈さん(30代)は、二人の子を持つシングルマザー。専業主婦だったが、夫の飲酒と暴力が原因で離婚後、生活のために仕事を始めた。単純計算で月収は50万円程度と、一見すれば生活はそこまで逼迫していないようにも思えるが……。

「上の子供が生まれてすぐ、都内に旦那名義でマンションを購入したのですが、旦那は完全に蒸発状態。私が連帯保証人になっていたため、離婚して物件を売却した後も差額分の支払いが残っています。現在の家賃もあるので、生活は本当に厳しい」(百合奈さん)

 子供を保育園に入れる際にも、従事している仕事のため様々な制約に悩まされた。シングルマザーでも額面では収入が高すぎるため、保育費用が高額な認可外保育園に子供を預けざるを得ず、その保育料を稼ぐため、さらにシフトを増やさなければならないという負の連鎖に陥った。しかし、目先の収入確保はゆずれなかったので、事実上のセーフティネットとして機能している接客サービス業を続けている。ギリギリの生活だったのに、今回のコロナショックが追い討ちをかけている。

「はっきり言って貯金する余裕などなく、その日暮らし的な生活でした。でも、この2ヶ月は収入が20万円ほどだったため、既に手持ちのお金は底をつきました。新たに消費者金融からお金を借りたり、地方に住む親にお金の無心をして凌いでいますが……」(百合奈さん)

 不安はまだある。政府は国民に対して、現金の給付を含めた様々な手段で対策を行うと明言しているが、果たして百合奈さんのような業種の人々も休業補償を含め、その恩恵を等しく受けられるのか、ということである。

「こういう業種ですから、休業補償を受けることができるのか、店長に聞いても誰もわからない。さらに休校中の小学生の子供を一人家に残して、数少ない勤務をこなしており、毎日が不安だらけ、正直死を考えることもあります」(百合奈さん)

 実は百合奈さん、語学力を生かして、細々とではあるがフリーランスの翻訳業の仕事も行なっている。しかし、フリーランスへの休業補償は、一般の勤め人に比べて半額程度になる予定だ。金額に不満があっても給付されるならありがたいところだが、手続きがいかにも役所的な複雑さで、本当にもらえるのか、いつになるのか不安になるばかりだ。百合奈さんが求めるのは、一刻も早い現金給付であり、一日も早く、安心して子育てや仕事に励める日々に戻りたいと願っている。

 私たちが支払っている税金は、国にプレゼントしているものではない。社会が安定して継続されるように、万が一の際に弱者が、国民が安心して暮らせるようにと預けているものだ。お肉券にお魚券、お寿司券などといった質の悪いコントのような消費刺激策ばかりがプランあがったが、生活困窮者を救う視点が欠けた議論など時間がもったいない。目の前の生活に追われている人を救い、落ち着いた社会生活を送るには何が必要なのか、安心させてくれる施策が求められている。

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