◆海外メディアは安倍首相を“音痴”と揶揄

 実は星野源はこれまでも、著書や楽曲の中で繰り返し「世界はバラバラである」ことを主張してきた。たとえば2009年に刊行された最初のエッセイ集『そして生活はつづく』(マガジンハウス刊)の中で彼は次のように書き記している。

〈集団と『ひとつ』になることを目指す。それが、この日本の社会から生まれる、集団の基本的な『和』のしくみであると思う。でも、やっぱりそれは少し窮屈だと思えてならない。(中略)本当に優秀な集団というのは、おそらく『ひとつでいることを持続させることができる』人たちよりも、『全員が違うことを考えながら持続できる』人たちのことを言うんじゃないだろうか〉

 翌2010年にリリースされたファースト・ソロ・アルバム『ばかのうた』には1曲目に「ばらばら」という歌がある。そこでも彼は、世界はひとつではなく、重なり合ったとしてもバラバラであると歌っていた。「うちで踊ろう」は、そうした星野源による「全員が違うことを考えながら持続する」ためのきわめて優れた“仕組み”だったのではないかと思う。

 では安倍首相と星野源の“コラボ”は、ミュージシャンからはどのように見えたのだろうか。国内外で活躍するターンテーブル奏者でキュレーターのdj sniff氏は、「今回の件は海外メディアから“tone deaf”(音痴・空気が読めない)と揶揄されています」と述べつつ、次のように所感を語る。

「星野源というポップスとアンダーグラウンドをつなぐ存在によるコラボレーション企画は、苦しい状況の中でのささやかな営みとして、これからの僕たちの活動へと希望を届けてくれました。けれども安倍首相が政治利用したことで、ひと時の希望の雰囲気や楽しい空気はぶち壊しです。疲弊しているコミュニティーに土足でズカズカと上がってくるような、空気を読まない行動だと思います」

 さらにdj sniff氏は文化への軽視を感じると言い、「首相とその周りにいる人たちは、音楽を“おまけ”みたいに考えているんでしょう。その証拠に今回投稿されたビデオでは、コラボレーションではなく単なるBGMとしてしか『うちで踊ろう』を使用していません」と憤りをみせた。続けて音楽関係者に向けて次のように語った。

「政治は何の躊躇もなく僕たちの領域に入り込んで音楽を搾取していくんですよ。音楽や表現で政治に勝つことはできないけれども、猛反発することはできる。だから日本でもミュージシャンが音楽の政治利用に対して声をあげ、むしろこっちから政治の領域に土足で上がっていくような図太さや強さを持つようになってほしい。ソーシャル・ディスタンシング(対人距離の確保)のさなかに起きた今回の一件は、音楽関係者やリスナーが長年ポリティカル・ディスタンシングをしてきた結果でしょう」

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