◆星野源のメッセージは「外出自粛要請」ではない
しかしそのようなタイミングで安倍首相は、自身が自宅でくつろぐ姿を「うちで踊ろう」に重ねた動画にして披露した。これでは国民感情を逆撫でするのも無理はない。「音楽関係者を見捨てておきながら、音楽のささやかな楽しみには便乗するのか」という批判が相次いだ。
こうした事態を受けて星野源は、くだんの投稿に関して自身のInstagramで「これまで様々な動画をアップして下さっている沢山の皆さんと同じ様に、僕自身にも所属事務所にも事前連絡や確認は、事後も含めて一切ありません」とコメント。しかし他のコラボ動画とは異なり、安倍首相の動画を紹介することはなかった。
その後、4月14日深夜に放送された『星野源のオールナイトニッポン』で彼は、「しんどいこととか苦しいことにどう対処するか。僕がいつもやってきたのは『面白いものを見たり面白いことをする』ということです」と語り、「うちで踊ろう」の制作経緯を次のように説明している。
「家の中でも面白いと思えること。見ているだけでも面白いし、自分が自分のやり方で参加できるんじゃないかと思えるようなこと。そして外に出なければいけない人も、何がこんどは上がっているんだろう、今どんなコラボレーションが行われているんだろうと、1日の楽しみができるようなものが作れないかなと思って」
つまり「うちで踊ろう」は外出自粛を呼びかけるために制作されたのではなく、むしろ外出自粛によって娯楽が制限されるなか、家にいる人も外にいる人も日々のちょっとした楽しみを自分で見つけてほしい、そうした思いから制作されたのである。さらに星野源は続ける。
「『僕らそれぞれの場所で重なり合うよ』という歌詞が入っているんですけど、この歌詞と、動画を重ねて自分でアップしていいという歌の仕組みがつながっている曲を作ったんですよね。(中略)実際に歌ったり踊ったりするとわかると思うんですけど、本当に重なっている感覚になるんですよ。一緒の時間を過ごしている感覚だったり、自分と誰かが今つながっているような気がする感覚って、それだけで生きられるんですよね」
同じ場所を共有できない状況だからこそ、別々の場所にいながら「うちで踊ろう」という“仕組み”を介して重なり合う時間を作りたかったのだと彼は言う。それはよく見かける「みんなでひとつになろう」というスローガンとは対極にある、みんながバラバラでありながら同じ時間を共有するための手段だとも言える。やはり一致団結を目指す自粛要請とは相容れないメッセージが込められている。