植木に付いて多くを学んだ小松は徒弟制度の重要性を語る。
「精神的な師弟関係とか徒弟制度は捨てたもんじゃないですよ。それがあるから、嬉しいこともあるし、つらいことがあっても乗り切れる。お笑い学校では、それは学べないと思います。
その一方で、若手同士で肩を寄せ合って、励まし合って──ということもありえなかった。実力のある奴だな、と思えたら、絶対に一緒に飲みませんでした。四人くらいが一緒にいて、一人だけ売れっ子がいると、このヤロウ、クソったれ、負けるもんかと思っちゃう」
植木は小松に対して、師でありながらも芸について自身の影響下に置こうとはしなかった。
「植木が言っていたのは『好きこそものの上手なれ、という言葉はないよ』ということ。『好きだから上手くなるなんてことはあり得ない。大成する、しないは努力次第なんだから』と。
それで植木の舞台に付いている時も『舞台はお前の修業場なんだから、お前の好きな俳優さんが出ている時には俺に構わずその人の芝居を見なさい。俺が教えられることなんて、あるはずないじゃないか』と言うんですよ。『小松政夫は植木等にそっくりだと言われて、俺が嬉しいなんて思うなよ。俺に似ているのは俺一人でたくさん。弟子が似ているなんて、気色悪い』って。
そんなこと言うものだから、この人のためなら、なんでもできると思えましたね。楽しくてしょうがない日々でした」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中
■撮影/片野田斉
※週刊ポスト2020年5月1日号