渋谷を歩く人も激減した(時事通信フォト)
現在、アメリカと中国を中心に60のワクチン候補の研究が進むとされる。ただし開発に時間がかかるのも事実だ。史上最速で承認されたといわれる「おたふくかぜ」のワクチンは、ウイルスサンプルの収集から認可まで4年を要した。
2002年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)や2012年から登場した中東呼吸器症候群(MERS)もワクチンは開発されていない。1976年に発生したエボラウイルスでさえいまだに、効果的なワクチンや治療法は確立していない。
たとえワクチンが開発されても、終息は難しいという意見がある。昭和大学の二木芳人客員教授(感染症学)はこう話す。
「ワクチンが世界中の人にまんべんなく供給されるのは、開発されてから3年以上はかかります。その間にも感染者は増え続けるでしょう。さらにこの感染力の強いウイルスは感染の過程で変異する恐れがある。ワクチンを作っているうちに効かなくなることがあり得ます」
教訓となるのは、ちょうど100年前に流行が終息したスペインかぜだ。
1918~1920年にかけて地球を襲ったスペインかぜでは、当時の世界人口の約3分の1にあたる5億人が感染し、2000万人から4500万人が命を落とした。
内務省(当時)の報告書などによると、日本をスペインかぜの第1波が襲ったのは1918年8月で、翌年7月までに2116万人が感染して25万人が死亡した。その3か月後に2回目の流行が発生し、241万人が感染して12万8000人が死亡。さらに1920年の8月に第3波が到来して、22万人が感染して3600人が死亡した。
「なぜか第2波は死亡率が高かった。最初の流行で感染せずに免疫がつかなかった人が命を落としたのか、ウイルスが強力に変異した可能性もあります。
その一方で多くの国民が感染して集団免疫が獲得されると、次第に死亡率が低下しました。それとともに病原性も低下し、スペインかぜは季節性インフルエンザに移行したとされます。当時とは医療態勢が違うものの、国内で3度にわたって流行が発生し、終息まで丸2年かかったことは歴史の教訓として心に刻んでおくべきです」(医療ジャーナリスト)
※女性セブン2020年5月7・14日号