中でもエース吉田の素顔は、昔の野球漫画に登場する主人公を彷彿とさせた。
「勉強できるけどやんない。野球めちゃうまい。超だらしない。でも女の子にもてる。ちょっと強がりで優しい。仲間は吉田のことをディスりつつも、憧れを抱いている。僕も吉田に憧れちゃいましたね」
◆主役になることを躊躇しないナイン
金足農業は県内でも練習が厳しくて有名だ。とはいえ、正座をしたまま上空に向かって声を張り上げる「声出し」や、延々とヘッドスライディングをやらされる伝統的な〈ペナルティー〉など、その光景は時に、〈狂信的に映った〉。
「声出しの時は、見てはいけないものを見てしまったような感じがしました。生徒がもっとも恐れていたコーチは、その代によっては、父兄から反感も買った。金農も少しずつ変わっていくでしょうけど、時代の変化はもっと早い」
もう1つ変わるべきことが、本書で提言されている。それは投球過多の問題だ。その火種は2000年代後半からくすぶり続けていたが、あの夏の吉田の球数の多さが、火に油を注ぐ形となった。
「吉田の連投を見て感動はしなかったです。いたたまれない気持ちでした」
しかし、吉田の父親は意外にも、連投に肯定的だった。著者の常識を軽々と超えていくチームに対し、甲子園を埋め尽くした観客の大半も心を奪われた。