「スタンドが自分たちに拍手を、歓声を送ってくれる。超快感だと思います。武道館を満員にしている歌手のように、俺たち今主役なんだと。でも金足のナインは、自分たちが主役になることに全く躊躇していない。吉田を筆頭に、自信を持った若者ってこんなに美しいんだって思いました」
決勝では大阪桐蔭に敗れたものの、球児たちが秋田に帰省すると、地元民の歓待ぶりに、〈世界が一変していた〉。卒業後は、プロ入りした吉田だけでなく、全員が野球を続けることにした。
「純粋にいいなって思いました。あんな厳しい練習をさせられても、皆野球好きになった。卒業後も野球を続ける野球部ほど良いと思います。それが一番の勝利っていうか。まだ野球をやりたいって思わせるのは、指導者にとっても栄誉です」
〈甲子園は、人を変える力がある〉。その言葉の意味を考えさせられる一冊だ。
【プロフィール】なかむら・けい/1973年千葉県船橋市生まれ。同志社大学法学部政治学科卒。スポーツ紙を7か月で退職後、ライターとして独立。『甲子園が割れた日 松井秀喜5連続敬遠の真実』で第18回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『勝ち過ぎた監督 駒大苫小牧 幻の三連覇』で第39回講談社ノンフィクション賞を受賞。他に『言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか』の取材・構成を担当。趣味は浅草放浪と、6時間前後で走るフルマラソン。172cm、74kg、AB型。
構成■水谷竹秀:1975年三重県生まれ。ノンフィクションライター。2011年、『日本を捨てた男たち』(集英社)で第9回開高健ノンフィクション賞を受賞。著書多数。
撮影■黒石あみ
※週刊ポスト2020年6月5日号