◆首相会見は「事前に質問を打ち合わせている」
権力と記者クラブの癒着を示す象徴的な例が、首相官邸の記者クラブである内閣記者会が主催する首相記者会見だ。第二次安倍政権が発足してから、フリーの記者は首相会見に出席できても質疑で指名されることはなかった。
事件が起きたのは今年2月29日の首相会見。内閣記者会に所属する大手メディアとの質疑を終えた安倍首相が会見場を去ろうとした際、フリージャーナリストの江川紹子氏が「質問があります」と声を上げて挙手したが、安倍首相は無視した。
後日、この対応について国会で問われた安倍首相は、「会見では事前に質問を記者クラブから伝えられ、内閣広報官と記者クラブが打ち合わせしている」という内容をあっさり認めた。つまり、一国のリーダーの忌憚のない意見が聞ける貴重な場であるはずの首相会見での質疑は、事前に記者クラブと内閣広報官が打ち合わせをしていた出来レースだったのだ。
この件が批判されると、(おそらくはネット世論を気にする官邸の配慮によって)首相会見でフリーの記者が指名されるようになった。そして迎えた4月17日の首相会見で指名されたのが畠山氏だ。安倍政権発足から首相会見で挙手するも、7年3か月以上にわたって無視され続けていた畠山氏が初めてつかんだ質問の機会だった。畠山氏は、記者クラブについて以下のように直球で質した。
「限定された形での記者会見を可能にしている現在の記者クラブ制度について総理がどのようにお考えになっているのか、それから今後、よりオープンな形での記者会見を開いていくお考えがあるのか」
対する安倍首相の返答は、「記者クラブのあり方は私が申し上げることではない。まさに皆様方に議論をしていただきたいと思います」というものだった。畠山氏が落胆したのは首相の返答ではなく、その後の記者クラブの対応だった。
「首相が記者クラブについての考えを述べた、価値のある返答でしたが、ほぼすべての大手メディアは質疑をスルーして報じませんでした。私の質問にニヤリと笑って答えた安倍首相からは、『どうせフリーには記者クラブの壁を超えられないだろう』との余裕を感じましたが、クラブの対応は予想した通りに終わって残念です。ただしこの件によって少しでも記者クラブの問題が社会に認知されたなら、質問の意義はあったと思います」(畠山氏)