◆家賃・光熱費なしで間借りする記者クラブ
“ズブズブ”の関係の根幹にあると考えられるのが、日本独自の制度である記者クラブだ。記者クラブとは、官公庁や自治体などを継続的に取材するために新聞社やテレビ局、通信社など大手メディアの記者が中心になって構成する組織であり、これまでも取材対象との関係性がたびたび批判されてきた。
多くの公的機関は記者クラブに記者室を提供しながら家賃は徴収せず、光熱費まで負担する。記者は与えられた部屋で長い時間を過ごしながら会見やレクなどに特権的に参加し、取材を通して関係を深める。とくに検察や警察の取材においては、あの手この手で幹部に近づき、そこから得たリーク情報を特ダネと称して他社に先駆けて報じる記者が優秀とされてきた。
今回、黒川氏と雀卓を囲んだ3人は産経の元検察担当記者、同じく産経の前司法クラブキャップ、朝日の元検察担当記者であり、裁判所内にある司法記者クラブを舞台に、検察幹部である黒川氏に食い込んだと思われる。
もちろん、取材対象に肉薄して情報を取ることは記者の本懐である。しかし一方で記者クラブは加盟社以外の記者会見参加や質問を拒むケースが多く、これまでたびたびフリー記者や海外メディアから批判されてきた。閉じられた記者クラブを舞台にした取材活動では取材対象との間に癒着が生じやすく、善悪に関するまっとうな感覚を失って、「誰のための報道か」という原点が見失われやすいのではないか。
「記者クラブは当局から特権的な利益供与を受けながら、その特権を手放そうとしません。現場の記者は『取材相手とは緊張感を保っている』と主張しますが、特権を与えられていると取材相手の機嫌を損ねないようにという配慮が働いて、相手と良好な関係を維持することが優先されてしまう。その結果、批判ができなくなる」(畠山氏)
実際に、官公庁側が記者クラブへの「出入り禁止」を所属記者に課したり、あるいはチラつかせたりすることで報道をコントロールしようとした事例はこれまでも多数あった。
2002年に日本新聞協会編集委員会が出した見解には、〈記者クラブは、公権力の行使を監視するとともに、公的機関に真の情報公開を求めていく社会的責務を負っています〉とある。
「しかし今回のケースでは、権力の監視を謳いながらズブズブの関係となり、一緒になって犯罪行為をしていた実態が明らかになりました。建前と実際の行為がかけ離れていることには怒りを覚えます。記者にとって最も大切なことは、読者に有益な情報を提供することですが、特権的に権力側と長い時間を過ごす記者クラブの記者は、権力側の拡声器となってしまう。それは記者ではなく、広報機関の仕事ではないでしょうか」(畠山氏)