人員募集だけでなく追跡もSNSで
「知り合い同士でやれば芋づる式にパクられるというリスクが高いため、現在は兵隊(詐欺の末端要員)をネットから引っ張ってくるようになっています。誰か一人がパクられても、仲間の名前や指示役がどこの誰かも知らされていないため、捜査はそれ以上進まない。ただ、仲間同士で仕事(詐欺)をやっていた時代は、それなりに統制がとれたのも事実。昔はそうなかったのですが、詐欺で得た金をメンバーの誰かが持ち逃げする、メンバー同士で金の取り合いをし、殺しまでやる奴が出てくるというのは、お互いが見ず知らずだからこそ起きる揉め事です」(嶋崎さん)
詐欺を地元の仲間などとやっていた時代、お互いに実家の場所、親の顔まで知っていたために結束力はそれなりに高かったという。口が硬い部下は、たとえ逮捕されても先輩指示役について絶対に吐くことなく、一人で刑務所に入った。ただ、一人でも「吐く」奴がいれば、グループは根こそぎ摘発される。
当然、一番摘発のリスクにさらされる出し子や受け子などの現場要員になりたがるものは少なくなった。その結果、指示役にとっても都合の良い「SNS経由で集められた要員」が現場を占めることになったが、所詮は寄せ集めであり、統制が取れるはずもない。
「SNS経由で集められた連中は、必ず指示役から身分証の提示を求められます。免許証や住民票、実名SNSの報告や、自宅玄関前でセルフィー(自撮り写真)を撮らせることも。こうすることで、逃げたり裏切ったりしたら家族にも危害が及ぶかもしれないと危機感を植え付ける。ただ、それでも身近な知り合いでもないからと、詐欺の指示役を裏切る奴が後を絶たない」(嶋崎さん)
SNS上には、免許証や電話番号などの個人情報、さらに顔写真と「金を持ち逃げした」という文言とともに「晒されて」いる人々がいる。そのほとんどが、こうした揉め事、仲間割れに関与した人物なのだという。詐欺を働く目的で集まったのだから、何かあっても自分が訴えられることはない、ということだろうが、それに対する指示役側の精一杯の嫌がらせが、この「晒し」行為のようである。
「晒されている人物は、見た目にもヤンキー風情の若者たちばかりではない。50歳を超えるおじさんや40代のおばさんの写真や免許証、ひどい時はその家族構成までが晒されている。こうして晒されたことで地元でも噂になり、帰る場所を失ってさらに詐欺の深みにはまって、もう普通の生活には戻れなくなる。逃げることに精一杯になり、自分でも気がつかないほど自分本位になると、仲間を裏切ったり、詐欺で得た金の持ち逃げだって普通にやり始めるようになるでしょう。どんどん仕事(詐欺)もやりづらくなるから、先鋭化した仕事、危険な仕事でも飛びつく。結果、より凶悪な犯罪に関与することになります」(嶋崎さん)