また、特殊詐欺グループの末端要員が「凶悪化」する理由については、かつて横浜市内で発生した特殊詐欺事件で逮捕され、その後メンバーに対する暴行や監禁容疑で再逮捕された経験を持つ自営業・栗本翔さん(仮名・40代)が次のように解説する。
「以前の詐欺グループは顔見知りばかりで、メンバーに入れる際、どんな犯行をやらせるかという時、かなり慎重に吟味されていたような気がします。例えば、あまりにもバカな奴に、特殊詐欺の電話をさせてもボロが出るでしょう。面接までやっていたくらいです。SNSで集められた人間に、そういう見極めはできない」(栗本さん)
詐欺というからには、相手を騙すために当然騙す側は頭を働かせる必要がある。そのために特殊詐欺事件は「バカにはできない」と断言する栗本さん。さらにこんな理由もあるという。
「昔の詐欺は、親や兄弟、友達にも言わず慎重にやっていたものです。SNSで気軽に犯罪をやろう、見知らぬ人の指示に従おうってやつの気が知れない。現在の詐欺末端要員の集め方は、そういった危機感もなければ社会常識も知らない本物のバカしか集まらないシステム。金がないからといった単純な理由で詐欺に参加し、ちょっとした揉め事でメンバーを殺してしまうことだってある」(栗本さん)
そもそも詐欺師自身が暴力を好まない。人を叩いたり殺めたりせず、騙して金品を奪い取るから詐欺師なのだと力説する。それが今日、詐欺師と言われる人たちがいとも簡単に人間に直接的な被害を与えるようになった。東京・江東区で発生した、特殊詐欺犯達による「アポ電強盗殺人事件」により、こうした潮流が可視化されたのである。
「江東区のアポ電事件の犯人のうちの一人も、金を持ち逃げしたということでSNS上に顔写真が晒されていました。普通、いくら金を持ち逃げされたからといって、詐欺の指示役が末端の顔をSNSに晒しあげるなんて考えられない。指示役自身の摘発の可能性も高まるからです。ある意味で詐欺師たちの劣化が進み、そこに無思慮な一般人が多く取り込まれ、これまで起きようがなかったような考えられない凶悪事件に発展しているんです」(栗本さん)
筆者は従前より、先鋭化する特殊詐欺犯達を取材し記事にしてきた。当時はまだ「杞憂」に過ぎなかったが、つい最近にも、SNSで集められた男達がいきなり「押し入り強盗」を引き起こし逮捕されるという事件も起きた。詐欺師というよりも、詐欺を皮切りに殺人さえ厭わないという人々を生み出すような仕組みが出来上がっているようにも感じている。詐欺グループの新メンバーではなく、凶悪な犯罪集団がSNSによって集められるようになっている、というのが現実のようだ。