馬風一門の女性前座・鈴々舎美馬が『金明竹』を演じる間に休憩を取った馬るこの3席目は、知ったかぶりの隠居が「なぜレバ刺しが禁止されたのか」の陰謀論をデッチ上げる『レバ刺し根問』。八五郎の「なぜ『鬼に金棒』なのか」「なぜ『知らぬが仏』なのか」「アルマジロはなぜアルマジロというのか」といった質問に答え続ける隠居の屁理屈の可笑しさは馬るこの真骨頂だ。
4席目は、堀の内のお祖師様を目指して出掛けながら、あまりに粗忽すぎて同じ過ちを何度も繰り返し永遠に辿り着けない無限ループに陥り「タイムループしてる!」と恐怖する男が主役の『堀の内』。「熱いお茶漬けが食べたいのにまともに食べられず諦めておにぎりにして喉に詰まらせて死にかける」のを毎日繰り返すほど粗忽な男という発想が秀逸で、その「繰り返しの可笑しさ」を独自のサゲに結び付けたのにも意表を突かれた。「馬るこの古典」の新たな傑作誕生である。
充実の4席を居ながらにして堪能できる配信落語会。「密」がタブーとされる状況にあって、落語はこういう生き残り方もできる。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2020年7月3日号